三井物産:組織が大きくなるほど理念共有は難しくなる。オフィス建て替えの際には15人の"アンバサダー社員"が議論を重ね、各部との橋渡し役を担った(写真:大野洋介)
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 コロナ禍を機にリモートワークが普及し、職場のコミュニケーションは変化した。会話を生み、職場が活性化するにはどうすればいいのか。AERA 2025年4月7日号より。

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 平日の昼下がり。スウェット地の洋服を着た男性がコーヒーマシンに手をかける。抽出を待つ40秒ほどの間に、今度は女性がナッツを取りにやってきた。しばし雑談に花が咲く。

 瀟洒(しょうしゃ)なカフェでのワンシーンかと思いきや、ここはれっきとした仕事場の一つ。緑豊かな皇居の隣にそびえ立つ「三井物産ビル」の一角だ。

 三井物産は、連結の従業員数が5万人強の大手総合商社。大手町の本社ビルでは、約4400人が働いている。かつては机の上に固定電話がずらりと並び、資料の山がいくつもできていたというが、その面影はない。

 コロナ禍をきっかけにリモートワークが進み、オフィスを削減する企業も相次いだ。同社のオフィスが新しくなったのは、2020年5月。だが、建て替え計画ははるか昔の11年から動いていた。

あえて配置はジグザグ

 三井物産が大切にする価値観の一つに、

「ビジネスの種は業界と業界の間にある」

 という考え方がある。「脱炭素」一つとっても、エネルギーやサステナビリティーなど部署を横断した提案が要求される。だが、多くの企業がそうであるように同社も「縦割り」意識が根強かった。新しいビジネスに挑戦するときには、その都度部署やチームをつくっていた。

 これでは機動性に欠ける──。新オフィスで目指したのが、部門間コミュニケーションが活性化される空間づくりだった。

 その役割を担ったのが、フロアの3分の1を占める「CAMP」と呼ばれるコミュニケーションスペースだ。間仕切りのない開放的な空間には大小さまざまなテーブルや椅子が並ぶ。あえてジグザグに設置し、歩き回るレイアウトを意識した。人事総務部の宮路由美子さんはこう説明する。

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