「文学者」たちは、誰よりも正確に、誰よりも深く、「生きる」現場を正確に記録してきた。ほんとうの「科学者」は文学者なのだ。わたしはそのうち主として「小説」を選んで「ぼくたちはどう老いるか」を書いている。永田さんは歌人だから「短歌」を選んだ(細胞生物学者でもあるけれど)。当然ではありませんか。 率直にいって、「文学」がこんなに「役に立つ」ものとは、「老いて」みるまでわたしにもわからなかった。永田さんも同じではあるまいか。

 永田紅という歌人の作である。いままでわたしが述べたことが簡明に記されている。わたしよりずっと上手い表現だ。短歌にはかなわない。

 笹公人が認知症の父の看病で病院に付き添った時の歌。万葉集には介護の歌がなかったのだそうだ。衝撃である。いや、そのことがではなく、そんな観点で読んだことも、考えたこともなかったことが、である。

 あまりにも有名な斎藤茂吉の歌だ。わたしだって知っている。ふつうに感動もした。だが、わたしの場合、実際に母が亡くなったときには、悲しくもなんともなかった。そして、それがいまに至る大切な宿題となったのである。

 こんな歌とその意味が永田さんの深い解釈と共に本書に満載されている。人生後半まで生きて、この本に会えて、ほんとうに良かった。繰り返し読ませていただきます!

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