細胞生物学者と歌人。二足の草鞋を履きながらも、現代歌壇を牽引する永田和宏さん。
最新エッセイのテーマは、長い人生後半への応援歌。
自著『人生後半にこそ読みたい秀歌』では、自ら後期高齢者になった経験をいかし、老いを迎えるための人生観とユーモアと覚悟を、エッセイと名歌でつづっている。
永田さんは、中高年は人生の困難をのりきる「収穫期」でもある、と語る。本作には、実りある「収穫期」を迎えるためのヒントが盛りだくさん。
永田和宏さんの『人生後半にこそ読みたい秀歌』の読みどころを高橋源一郎さんが綴った書評を紹介する。
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『人生後半にこそ読みたい秀歌』 永田和宏 著 朝日新聞出版より4月7日発売予定
永田和宏さんの『人生後半にこそ読みたい秀歌』は、人生後半にこそ読みたい本だ……わたしのいいたいこと、書きたいことは、そのひとことに尽きる。でも、それだけではもったいないので、少々感想を書かせていただきたい。 わたしはここしばらく、雑誌に「ぼくたちはどう老いるか」というタイトルで連載をさせていただいている。中身は、タイトル通り、我々はどんなふうに老いてゆけばいいのかを考えるものだ。「老い」の本は死ぬほど出版されている。さすが超高齢社会。けれども、ほとんどが「情報」を教えてくれるものか「実用書」ばかりだ。悪くはない。あってもいい。しかし、そればかりって、大丈夫なのか?
先日、同世代の知人が、こんなことをポツリと呟いた。「おれ、週末にルーティンがあるんだよ。甘いものを食べない、とか。夜9時過ぎには食事しない、とか。でもね、よく考えてみたら、それは長生きしたいからだよね。そんなルーティンしてて楽しくないし、もしかしたら明日死んじゃうかもしれない。だったらそんなの無意味じゃないか。なんのために生きてんだよ、って思ったんだ」
そう思った知人は、その週末、ケーキを一気食いし、夜中にラーメンを食べたそうだ。気持わかる……。その知人には、永田さんのこの本を薦めておいた。たぶん喜んでくれると思う。わたしの本が完成した暁には、やはり本を献呈したいと思う。永田さんと同じく、「なんのために生きてんだよ、って」思う、あらゆる人びとのために、わたしも書いているのである。