萬田緑平先生の講演を聞いて、「次の映画はこれだ」
「僕はこれまで亡くなるときはピンピンコロリが一番理想だと思っていました。しかし、母がピンピンコロリで亡くなって、残されたほうとしては、お別れの時間を持てなかったことにすごい空白感がありました。果たしてピンピンコロリが理想なのかと疑問を持ち始めたその頃に萬田緑平先生の講演を聞いて、『次の映画はこれだ』と思ったんです」
萬田医師は、群馬県で自ら開業した「緩和ケア 萬田診療所」の院長を務め、主にがん患者への在宅医療をおこなっている。16年間で2000件以上の看取りにかかわっている。「最期まで精一杯生きる」と題した講演活動は日本全国で600回を超え、のべ5万人が参加。主な著書に『穏やかな死に医療はいらない』などがある。

「萬田先生は明るいキャラで、講演でもたくさん笑いが起きる。映画を見た人に『少しでも希望を感じてほしい』と僕は考えていたので、萬田先生に映画を撮らせてもらうことを依頼しました。実際に撮り始めても、患者さんや家族の方々が萬田先生とのやりとりで笑顔になっていく。患者さんは『がんと告知されてから、初めて笑いました』と漏らすんです」(オオタヴィン監督)
在宅医療は一般的に、まず患者が診療所に通院する「外来診療」があり、その後、通院が難しくなった場合に、医師が定期的に患者の自宅に訪問して診療する「訪問診療」へと移行し(注:通院可能でも訪問診療を希望することができる)、医療用麻薬を使いがんの痛みをやわらげる。
在宅緩和ケアというと、「家族の負担が大きい」「お金持ちだから受けられる医療」といった思い込みもある。しかし、家族がつきっきりで看病する必要はなく、費用に関しても、保険診療で一般の人たちが受けられるもので、決して「特別な人」の医療ではない。この映画に映し出される患者・家族はいたって“普通”の人たちだ。
家に戻ってこられただけで100点
特別という点があるならば、自宅に帰ることを受け入れた家族の存在かもしれない。萬田医師は作中で次のような趣旨の話をする。