面白くないと公言する背景

 粗品がYouTuberは面白くないと公言するのは、彼自身の主張というより、一昔前に多くの芸人が抱いていた本音を代弁しているようなところがある。実際、ネタやトークといったお笑いの分野で不特定多数の人を笑わせるということにかけては、プロの芸人の右に出る者はいないだろう。その意味で「YouTuberは芸人より面白くない」と主張したいのであれば、それは間違いではないのかもしれない。

 ただ、一部の芸人がそう言いたくなる裏にあるのは、YouTuberという得体のしれない存在に対する恐れの感情だろう。テレビや舞台を本拠地とする芸人にとって、YouTubeという場所で人気を得ているYouTuberというのは謎めいた存在だった。初期のYouTubeでは「プロの芸人がYouTubeをやるのは格好悪い」という風潮があった。面白くない素人に交じってプロの芸人が動画を出すのはみっともないことだと思われていた。

 その後、YouTubeがどんどんメジャーになっていき、YouTuberという存在が徐々に知られるようになってくると、そのような偏見も薄れてきた。YouTubeを始める芸人も続々と出てきて、YouTuberと芸人のコラボも盛んに行われるようになった。

粗品もYouTubeをやっていて

 そもそも、YouTuberを批判する粗品自身が、コンビとしても個人としてもYouTubeチャンネルを持っていて、芸人YouTuberの中でも無類の人気を誇っている。

 粗品の「YouTuber批判」がいまだに反響を呼ぶのは、それがかつて表に出ていなかった芸人のYouTuberへの偏見をあえて代弁しているようなところがあるからだろう。芸人とYouTuberの間の壁がなくなり、平和が訪れた今だからこそ、強めの偏見がネタとして成立する。

 さらに言えば、今回の粗品のHIKAKINに対する批判は、内容だけを読むならただの正論であり、芸人やYouTuberという立場とは関係なく、人間としてのあり方を問うているものだ。同じ動画の中で粗品は先輩芸人の宮迫博之に対しても、至極まっとうな意見を述べている。

 YouTubeを通してそれぞれの立場の人間が自由に意見を言い合える状況になったのは喜ばしいことだ。そこでは意見を言うこと自体を一種のパフォーマンスに昇華できる人間がのし上がっていく。粗品の天下はしばらく続きそうだ。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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