新入社員の給与を引き上げる企業も増えている。就職氷河期など中高年社員は、待遇への不満から転職を検討してもおかしくはない(写真:写真映像部・佐藤創紀)
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 転職願望をもつミドルシニアが増えている。40~50代を対象にした転職支援も活況を呈し、「35歳転職限界説」は過去のものになりつつある。中高年の転職願望の背景には何があるのか。AERA 2025年3月31日号より。

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 総務省の労働力調査によると、2024年の転職希望者は1千万人。集計を開始した13年以降の推移を見ると、年齢別で最も増加幅が大きいのが45~54歳だ。24年は229万人で、13年の154万人の約1.5倍に増えている。

 ミドルシニアの転職願望の背景には何があるのか。

 東京・赤坂で昼から営業するスナック「ひきだし」。17年に同店をオープンした「ママ」は、企業のセカンドキャリア研修や40~50代向けのキャリアコーチングを行う木下紫乃さん(56)だ。同店には連日、悩み深き中高年が集う。

「モヤモヤを抱えて働く40~50代はやっぱり多いですね。50代になると、会社に居場所がなくなり、居心地の悪さを感じるといった声はよく聞きます」(木下さん)

 それまでは部下の仕事をチェックしたり、リードしたりする役割だったのが、役職定年を迎えると、周囲に気をつかわれて必要なフィードバックももらえなくなる。

「そういうことがきっかけで、この会社での自分の寿命も長くないのかな、と感じる方は多いようです」(同)

 とはいえ、オープン当初は「転職は非現実的」というミドルシニアがほとんどだった。木下さんが変化を感じたのはコロナ禍以降だという。

「DX化やオンラインの普及に順応できるかどうかといったことが試金石になり、会社に必要とされる人とそうでない人との区別が鮮明化し、実際に転職活動に踏み出す人がぽつりぽつりと増え始めた印象です」

 つい先日転職が決まったミドルシニアも、積年の「モヤモヤ」から一歩を踏み出した一人だ。

「私たちの世代は就職氷河期ど真ん中。上のポストも詰まっていてなかなか管理職にもなれず、給料も上がらない。いつかはもっと待遇のいいところへ転職したいと考えるのは必然ではないでしょうか」

 こう胸中を明かすのは神奈川県在住の50代男性。30年近く勤めたIT・通信系企業を2月に退職した。会社に辞表を提出したのは取材を申し込んだ数日前。上司はかなり驚いた様子だったという。

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