しかし前田さんが36歳の時、事実婚が終わってしまう。
現在、日本では日本産科婦人科学会の見解により、「凍結された胚(はい)(受精卵)の保存期間は、被実施者夫婦が夫婦として継続している期間」と定められている。そのため、離婚または事実婚を解消した場合には、受精卵の保管は終了、つまり廃棄しなければならない。
前田さんが受精卵凍結をしたクリニックでは、受精卵の細胞分裂の状態を、タイムラプス映像で見ることができた。ここまで生き抜いて、成長してくれた、私たちの綺麗な卵たち――。その過程ですでに、受精卵に対する愛着がしっかりと湧いていた。
「受精卵の破棄は、まるで自分の子どもを殺すような感覚でした」
受精卵を廃棄したことで、パートナーを責めて落ち込みたくない気持ちもあったし、「自分で動かぬまま、恨み言を言う未来は絶対に避けたいと思った」。何とかマイナス地点から、振り出しに戻らないとと必死だった。