
元朝日新聞記者でアフロヘアーがトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。
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私、かなりの熱心な新聞読者。何しろ10年前まで新聞記者だったんですよ! でも記者時代は正直、新聞を読むのが好きでも熱心でもなく(やらなきゃいけないとなるとやりたくない)。でも会社を辞めたら急に好きになった。あらゆる情報が襲ってくる時代に、100年以上続く地味で頑固なスタイルが案外貴重なのだ。毎朝カフェでモーニングを食べながらガサガサ新聞を開き、世の出来事を定点観測する昭和スタイルを一人で敢行している。
そんな朝、朝日歌壇選者の馬場あき子さん退任を知る。
ちなみに私、毎週日曜の朝日歌壇は、それこそ会社を辞めてからちょくちょく読むようになった。選者により選ぶ句が違うのが面白いし、選者による寸評を読んで、そうかこの歌はそういうことを言ってたのかと初めて気づくのも面白かった。で、馬場さんは「あき子」という名前が「えみ子」と類似系なので(そんな理由……)、何となくお馴染みの存在だったのだ。

退任の記事を読んで一番驚いたのが、馬場さん97歳! しかも今も新作を発表するバリバリ現役。写真の笑顔も超可愛い。ただこの先いつどうなるかわからないので、元気なうちに自分で幕を引くと決めたそうだ。
他にもいろんなことに驚いた。まず2週間で4千〜5千の投稿があり、4人の選者が集まり全てに目を通していること。そんなにたくさんの人が投稿していることも、そこから選ぶ作業の途方もなさも初めて知った。だからなのだろう。馬場さんは印象に残る投稿者としてスッと2人の名を挙げ、その理由がお2人の暮らしを垣間見るようだった。選者と投稿者は歌を通じて人生を共にしているのだ。良い歌を詠むには「言葉を砥石にかける」という一言も沁みた。「きれいな言葉にするという意味じゃないの。言葉を研いでいくうちに、こういうことを私は言いたかったんだという深い思いが歌の奥から出てきます」
削った先に本当のことが見えてくる。ならば失うことも老いることも大事なのだ。
※AERA 2025年3月10日号

