帝国劇場の舞台下にある大ぜりの根元に立つ井上芳雄さん。「普段は下(地下6階)までは来ないですね、役者は。最近は、作品ごとの演出を優先するので、そんなに使わないんですけど、最後のコンサートではフルに使うので、楽しんでもらえていたらいいですね」(撮影:品田裕美)

いま、帝劇の9階には稽古場とは別にプロデューサー室があるんですけど、そこに、ルドルフ役の候補が最後に3人残されて、この歌を歌ってください、知らないだろうから、ここで譜読みをしてくださいって言われて、30分ぐらい与えられたんです。僕は『エリザベート』もその曲も知っていたので、ほかのお二人に、こういう歌なんですよってお教えした気がします(笑)」

稀有な在学中デビューを果たした実力を持つ井上だが、忘れられない帝劇の思い出のひとつに、ダメ出しをされてトイレに籠もったというものがある。

「『エリザベート』の再演のときですね。翌年の01年かな。同じルドルフ役で、2回目だからうまくできるかと思いきや(苦笑)。先生に、まだ学生に戻れるぞ、みたいに言われて。それまで、あまりダメ出しされた経験がなかったので、ちょっとショックで。そんなこともあって、いまや、ダメ出し大嫌いになっちゃった(笑)」

最も井上の印象に残っている作品は

そんな井上にとって、帝劇で最も印象に残っている作品は、今回のコンサートでも自身が歌う「ルドルフ ザ・ラスト・キス」、ウィーン版の演出(12年)だ。

「いまだに共演者たちと、あれ、よかったね、って話しますね。もう全部がよかったんですけど、ウィーンから持ってきた、電動の大きなカーテンでシーンを変えていく装置がすごく難しくて。初日開けるまでも壊れたりして大変そうで。上演中もうまくいったりいかなかったりしていたんですけど、千秋楽で、ばさっと落ちるはずが、残っちゃった。残念ではあったんですが、でも、終わりたくないという気持ちがカーテンにもあったんじゃないか、って思った記憶があります(笑)。

いまでこそミュージカルが人気を得て、お客様がたくさん来てくださるけれど、当時は帝劇を1カ月1人で埋めるっていうのはなかなか大変なことで。新作はどんなに評判がよくても常に満席ってふうにはいかなくて。そんなちょっと悔しい思いも含め、強く印象に残っていますね」

(編集部・伏見美雪)

現・帝国劇場の最終公演を飾るコンサート「THE BEST New HISTORY COMING」で0番(センター)を務める井上芳雄さん。オープニング曲「THE 帝劇」では、帝劇でこれまでに上演されたミュージカル53作品のタイトルを出演者が歌いつないだ(撮影/上田泰世・写真映像部)

【後編はこちら】さようなら帝国劇場 堂本光一と行った地下の中華に、蕎麦屋、喫茶店…劇場だけではない、井上芳雄が語る思い出

AERA 2025年3月3日号より抜粋

▼▼▼AERA最新号はこちら▼▼▼