批評家の東浩紀さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、批評的視点からアプローチします。
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リベラルにとっては驚きの結果となった。統一地方選前半戦での日本維新の会の躍進のことである。
維新は大阪府知事・市長のダブル選で圧勝し、奈良県知事選にも勝利。大阪府市両議会で単独過半数を獲得したうえ、他県でも議席を増やした。他方で立憲民主党は存在感を示せず、唯一の与野党対決となった北海道知事選で惨敗した。共産も大幅に議席を減らし、右派改革勢力と左派で明暗が分かれた。
この結果は「野党共闘」の時代が終わったことを意味している。共闘は2015年に始まった。SEALDsなど若い世代の運動が現れ、新たな政治への期待が高まった。
しかし17年に民進党が実質的に分裂すると、共闘は急速に左派色を強め始める。結果として現在の共闘勢力は、立民と共産両党の岩盤支持層の顔色を窺(うかが)い、一般市民の関心事から乖離(かいり)する存在になってしまった。憲法やジェンダーも確かに重要な問題だが、まずは足元の経済や少子化をなんとかしてくれと考える有権者は少なくない。近年の左派は彼らの声にあまりに冷淡だったのではないか。
立民は21年の衆院選、22年の参院選と連続で議席を減らしており、今も小西洋之議員の「サル」発言で混乱を続けている。共産はこの春に党員を相次いで除名にし、広く非難を浴びた。ともに岩盤支持層の顔色窺いの結果といえるが、その何倍もの数の有権者は呆(あき)れ果てている。そこにかつての共闘への期待はない。自(おの)ずと票は別に流れる。維新の躍進は当然の結果であり、今後もこの傾向は続くだろう。
筆者は東京に住んでいる。周囲は反維新ばかりだ。ネットでも批判は多い。頷(うなず)ける指摘もある。けれども朝日新聞の出口調査によれば、現実には、大阪ダブル選の投票者の8割以上が維新政治を評価すると答えている。維新は着実に信頼を積みあげている。ポピュリズムを批判するのもいいが、まずはこの8年の迷走と先鋭化でなにを失ってしまったのか、リベラルは真摯(しんし)に反省すべきだ。
みなが与党を支持しているわけではない。政治に無関心なわけでもない。ただ左派には失望しているのである。
◎東浩紀(あずま・ひろき)/1971年、東京都生まれ。批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役。東京大学大学院博士課程修了。専門は現代思想、表象文化論、情報社会論。93年に批評家としてデビュー、東京工業大学特任教授、早稲田大学教授など歴任のうえ現職。著書に『動物化するポストモダン』『一般意志2・0』『観光客の哲学』など多数
※AERA 2023年4月24日号