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いま、ホラー系コンテンツの人気が高まっている。文芸書のベストセラーランキングでも上位にランクインするホラー小説の魅力とは何か。AERA 2025年2月24日号より。
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脚光を浴びるホラー作品。小説の世界でも注目の存在がいる。ホラー作家の背筋さん。デビュー作『近畿地方のある場所について』に続き、『穢れた聖地巡礼について』『口に関するアンケート』が立て続けにヒット。とくに『近畿地方のある場所について』は2024年の文芸書年間ベストセラー(トーハン調べ)で4位に入り、今年は映画化も決定している。
繰り返しの文化
始まりは2023年1月。KADOKAWAが運営する小説投稿サイト「カクヨム」に現れた「情報をお持ちの方はご連絡ください」という言葉から始まる文章だ。ある人物がネットの情報や雑誌などから近畿地方のある場所についての怪談を集め、それがある恐ろしい事実を浮かび上がらせていく。そんな内容が話題となり、書籍化へとつながった。背筋さんはこう話す。
「最初は長い話を書こうというつもりはなかったんです。たまたま時間ができたときに書いた短編をホラー好きの友人がほめてくれて。短編をいくつか書くうちに、何かその受け皿になるような大きな器みたいなもの、たとえばそのすべては近畿地方の同じ場所で起きているとか、そのすべてが関連しているとか。そんな作品にしてみようかと」
そもそも書籍化の前に、自身のSNSともリンクした「カクヨム」で無料で読めることで、「ハードルを低く楽しんでもらえた」ことが話題の要因ではと背筋さんは言う。ただ「ホラーというものを受け入れる土壌って、こんなに裾野が広かったのか」と、嬉しい半面、意外に思う気持ちが強いという。
「読者が怖いものに何を求めているかというよりは、『怖い』を求めているのだと思います。いまに限りません。いつの時代も、恐怖への憧れや好奇心はずっとずっとあると思うんです」
背筋さんは自らのホラー作品について、「たとえば小野不由美さんの小説『残穢』や白石晃士監督の映画『ノロイ』など、好きな作品からの影響は大きい。一方で、作家・背筋ならではの『新しいもの』はないと思います。私でしか成し得ないことをしているとは、まったく思っていません」と淡々と話す。
「ホラーって繰り返しの文化だと考えています。人類が生まれて以来、死というものから逃れられたり、死への恐怖が消えたことはたぶん、ない。その意味で、ホラーとは同じテーマをさまざまな側面から書くもの。常に進化しているとも言えるし、していないとも言える。たとえばテクノロジー面で進化するように見えることはあるのかもしれませんが、ホラーそのものが持つ本質や魅力は、ずっと変わることはないと思います」
(編集部・小長光哲郎)
※AERA 2025年2月24日号より抜粋
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