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天才詩人・中原中也と女優・長谷川泰子、そして文芸評論家・小林秀雄。文学史に名を残す彼らの関係を描いた映画「ゆきてかへらぬ」が公開される。中也を演じた木戸大聖さん、泰子を演じた広瀬すずさんが感じた「愛」とは──。AERA 2025年2月24日号より。
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――大正時代の京都。20歳の駆け出し女優・長谷川泰子(やすこ)(広瀬すず)は17歳の中原中也(木戸大聖)と出会い、同棲を始める。二人のもとを中也の才能を早くから認める小林秀雄(岡田将生)が訪ねたことで、三人の関係がはじまっていく。
広瀬:泰子役は刺激的な役でした。なかなかここまで強い女性を演じることはないですし、演じていて気持ちがよかった。泰子はいま目の前にある世界だけで生きているようなシンプルで真っすぐな女性なんです。実在の人物ではあるけれど、あまりそこには引っ張られないようにしました。要素が多く入ってしまうほど、泰子という人の「核」が濁るような気がして、あくまでも台本のなかの泰子を生きようと心がけました。
木戸:中原中也は教科書にもあの帽子を被った写真が載っていますよね。みんなが知っている人物だし、役をいただいて光栄でしたが、最初は悩みもしました。詩を読んで「どういう比喩(ひゆ)なんだろう?」「どういう意味なんだろう?」と深掘りしていったら考えれば考えるほどわからなくなってしまった。でも演じるうちに、詩の意味を理解することが重要なのではなく「このとき、彼は何を思ってこれを書いたんだろう」のほうが重要だと気づきました。「詩には正解がない」と言われるのはそういうことなのかな、と少しだけわかった気がします。
――若さと才気がほとばしる中也と、生命のエネルギーに満ちた泰子は、同志のようでもあり、ときに激しくぶつかり合いもする。