広瀬すずさん(styling 丸山 晃、hair & make up Haruka Tazaki、costume ビスチェ、スカート(共にフェティコ/ザ・ウォール ショールーム)、シアートップス(プランクプロジェクト/プランクプロジェクト青山店)、シューズ(マノロ ブラニク/ブルーベル・ジャパン)、ピアス(トムウッド/トムウッド 青山店)、撮影 写真映像部・松永卓也)

「個人戦」で生きている

広瀬:中也と泰子はいい意味で「個人戦」で生きている感じがします。二人が取っ組み合うシーンも、ちゃんと遠慮のないところまでやり合えたというか。

木戸:けっこうなプロレスでしたよね。

広瀬:ふだん、俳優同士でも遠慮しちゃってなかなかあそこまでできないんですけど。

木戸:広瀬さんが「私、なんでも大丈夫だから」って、さらっと言ってくれたことが僕にはすごく大きかったし救われました。それに広瀬さんはそういうシーンを撮り終わったあと、すごい気持ちよさそうなんですよ。スカッとして、スポーツした!みたいな。

広瀬:あのころは忙しくてなかなかジム行けてなかったから(笑)。

――やがて泰子は中也と別れ、小林のもとへ。しかし彼らの関係はドロドロとした三角関係とは違うものだ。小林は自らその関係を「奇妙な三角関係」と評している。

広瀬:三人の関係は当てはまる言葉がないんですよね。運命共同体であり「三人の世界」としか言いようがない。泰子の行動動機はある意味ものすごくシンプルだと思います。ただただ相手への思いが強くて、自分の心の支えを必要としていて、それが二人の男性との関係性に結びついた。

木戸:中也は相手の年齢に関係なく、泰子にも小林にもぶつかっていきます。その姿勢と関係性は最後まで変わらなかった。

二人の男性への執着

広瀬:泰子も撮影現場で目上の女優さんに食ってかかって仕事をなくしたりする。あの時代に女性があのような発言ができたり、行動ができたりする強さはそうそうないと思うんです。ただ演じながら「本当に彼女は女優という仕事が好きだったのかな」とは思いました。それよりも二人の男性への執着のほうが強い気がして。お芝居は役というフィルターを一枚通して自分の言葉や気持ちを発散することができるものでもある。だからこそ爆発しそうな自分を発散させる作業として、本当は泰子みたいな人に向いていると思うんですけれど。

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泰子に出会わなければ