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――撮影を通して、俳優としてお互いの印象や演技に気づきがあった、と言う。
広瀬:木戸さんご本人にはすごくまっすぐでピュアな感じがあって、それがこの映画のなかで中也に重なっていました。私も演じていて「あ、中也ってこういう人だったのかな」と思えて、二人のつながりの純粋さを受け入れられた気がします。実際、木戸さんってすごいピュアですよね。まっさらな感じがする。
木戸:ええ? そんなことないですよ(照れ笑い)。広瀬さんはずっとこんな感じで本当にフラット。ただ本番直前に「すーんっ」て役が本人にスキャンされるような感じがあるんですよ。そのスイッチの入り方も「演じている」というよりは「落とし込む」ような感じで、瞬発的にそこに「役を存在させる」力が半端ないな!って勉強になりました。でも「カット!」ってなるとすぐに「あ~、おなか空いた~」って戻る(笑)。
泰子に出会わなければ
広瀬:短期集中型なだけです。そういえば岡田さんも木戸さんも、男性陣二人はじりじりとずっと同じペースで役としている感じだった。私はそんなに長期で集中できないんです。しなきゃいけない時だけしかできない。
木戸:そう、今回岡田さんと自分は演技のやりかたがちょっと似ているなと思いました。
――中也は別の女性と結婚しても、晩年まで泰子とつかず離れずの関係を続ける。その愛を二人はどう受け止めたのだろう?
広瀬:二人の愛のかたちは、もはや老夫婦ですよね。
木戸:あ~。確かに。
広瀬:最初は年齢も若くて、しかも自我が特に人よりも強いタイプの二人だからぶつかり合う。もっと年を取ったらバランスが良くなりそうだなと思っていました。
木戸:その視点はすごく的を射ていますね。泰子ほどのパンチ力やエネルギーのある女性に出会っていなかったら、中也の作品の支持のされ方は全然違っただろうと思うんです。泰子はやっぱり彼の詩の言葉やその色合いの源だった。そこを小林秀雄やほかの周囲の人たちもわかっていた。彼らの関係は、誰にも真似できない関係だったのだと思います。
広瀬:でも、人に憧れられるような老夫婦ではないよね。「ああなりたくないよね」って言われる老夫婦。
木戸:かもしれない(笑)。
ひろせ・すず/1998年、静岡県出身。近年の主な出演作に「水は海に向かって流れる」「キリエのうた」(23年)など。公開待機作に「片思い世界」「宝島」「遠い山なみの光」などがある
きど・たいせい/1996年、福岡県出身。主な出演作にドラマ「ゆりあ先生の赤い糸」(23年)、「万博の太陽」「9ボーダー」「海のはじまり」(24年)、映画「きみの色」(24年)などがある
(構成/フリーランス記者・中村千晶)
※AERA 2025年2月24日号
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