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今の「普通」に違和感
奥田さんは「CSR(企業の社会的責任)とともに、SDGsに取り組む組織が増えました。『働きがいも経済成長も』のような目標は結果が見えにくいのに対して、『ジェンダー平等を実現しよう』は可視化しやすい。仕事と育児を両立させている女性は、社会課題の解決に取り組んでいる例として紹介しやすいのでは」と話す。
福岡県の女性会社員(56)はバブル期に入社した。同期や先輩の女性たちは結婚後に次々と仕事を辞めていったが、自身は「結果的にそちら(結婚して退職)にならなかったというだけです」とさっぱりとした様子で話す。自分の歩んできた道に後悔がないから「ロールモデルになれない」と悩むことはないものの、今の社会の「普通」を押し付けられると違和感を覚えるという。「若く見えるのは苦労してない独身だから」といった言葉をかけられたこともあった。
海外に住む友人から「いろいろな人がいるから、絶対に海外のほうが楽だよ」と言われたという女性は、「結婚して子どもがいながら働いてバタバタしているのも、結婚せずに一人でいるのも、どちらも『普通』になればいい。そして、そういう人たちが交流できると良いですよね」と話す。
生き方の規範は多様
奥田さんは「女性にとって、かつては仕事と育児の両立は難しかった。それが可能になり、リーダーになるチャンスも与えられていること自体は良いこと」と強調した上で、こう指摘する。
「両立が難しかった時代なら『仕事のために結婚も出産もしなかった』と思うことができました。でも『仕事と家庭を両立させながら管理職に就くことが女性活躍』という規範が広がると『自分は社会が求めている生き方をしてこなかった』と悔しく感じる人もいるでしょう。女性たちにそう感じさせている今の社会から、女性の生き方の多様性を重視する社会を目指すべきです」
そのためには、まず制度をつくる政府はもちろん、各企業の意識転換が求められる。子育て中の人だけではなく、介護中の人はもちろん、独身者も趣味や勉強などの時間をきちんと確保できて、自分の暮らしを充実させることができるように、社会全体が次のステージへ向かう時が来ているのだ。
奥田さんは言う。
「生き方の規範となるロールモデルは多様なのだから」
(フリーランス記者・山本奈朱香)
※AERA 2025年2月24日号より抜粋
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