通信員は続ける。

「日本では、日本ハム時代から大谷のパーソナルな部分に触れてきて、彼が野球を誰よりも愛してストイックに取り組んできたことを知っている。野球以外に無頓着だったことが反省点であるかもしれませんが、彼の性格を考えれば水原被告の違法賭博を黙認するわけがない。でも、米国の人たちは違います。オフィシャルな会見では通訳を介してコメントを語っているので、私たち日本人に比べて大谷の人間性が見えにくい部分がある。事件が発覚した際は、『水原被告はトカゲのしっぽ切りだ』などと、なんの根拠もない情報がSNS上で出回りました。残念ながらこれが、日本メディアで報じられていない現実です」

判決後、裁判所を出た水原一平被告

「僕も黄色人種蔑視の言葉を言われた」

 大谷はドジャース移籍1年目の昨年、ドジャースのワールドチャンピオンに大きく貢献し、2年連続3度目のMVPに輝いた。メジャーの看板選手になったにもかかわらず、なぜいわれのない批判が出るのか。

 メジャーで過去にプレーした日本人選手は「一言でいえば、人種差別があります」と語る。

「大谷が活躍していることを喜んでいる人たちだけではありません。妬み、ひがみで前人未到の功績を認めたがらない人たちもいます。僕も米国でプレーしていた時、スタンドから黄色人種を蔑視するようなスラングを投げかけられたことがありました。差別主義の人たちは、水原被告の件で、日本人の大谷は違法賭博を知っていたはずという願望を広めているだけです。もし、被害者が大谷でなくてアーロン・ジャッジ(ヤンキース)だったら、こんな声は起こらなかったでしょう」

 かつて、日本人選手への差別行為が波紋を呼んだことがあった。17年のワールドシリーズ第3戦で、アストロズのユリ・グリエルがドジャースのダルビッシュ有(現パドレス)から2回に本塁打を放つと、ベンチに戻ってチームメイトと談笑しながら、自分の両目を両手で横に引っ張り目を細めるようなジェスチャーをした。これはアジア系に対する差別と受け取られる行為だ。問題視したMLBはグリエルに翌シーズンで5試合出場停止の処分を科している。

「グリエルは1年だけですがDeNAでプレーした経験があります。それにもかかわらずこういう行為をしたのは、アジアの人間に対して潜在的な差別意識があったと捉えられても仕方ない。昨年、水原被告の事件が明らかになった時、大谷にもビジター球場で相手ファンから事件に関するヤジが飛んだことがありました。でも、特大のアーチを打ったら、次の打席からスタンドが静かになりました。誹謗中傷は聞いているこちらもストレスが溜まりますが、その中で結果を出す大谷はすごいと改めて感じましたね」(米国で取材するメジャー担当のスポーツ紙記者)

 SNSで広がるデマを消し去ることは極めて難しい。水原被告の罪は、お金を盗み取ったことだけではない。

(今川秀悟)

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