いさか・こうたろう/1971年、千葉県生まれ。東北大学法学部卒業。2008年『ゴールデンスランバー』で本屋大賞と山本周五郎賞、20年『逆ソクラテス』で柴田錬三郎賞など(写真:Getty Images)
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『陽気なギャングが地球を回す』『重力ピエロ』『グラスホッパー』『死神の精度』『AX アックス』をはじめ、読者を裏切らない小説を書き続ける伊坂幸太郎さん。デビュー25周年の新刊第1弾は異色のイラスト入り中編小説だ。AERA 2025年2月17日号より。

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──デビュー作『オーデュボンの祈り』が2000年12月に発売されてから、作家活動25周年を迎えられました。

伊坂幸太郎(以下、伊坂):最初の本が出た時は、まだ仙台の会社に勤めていて、出張で東京に来ていました。駅前の小さな本屋さんに見に行ったら自分の本が積まれていて、おお、本当にある、みたいな感じでしたね。一緒にいた同僚にこっそり教えたら買ってくれたんです。

──小説を書いていることは秘密にしていたんですか?

伊坂:なるべく言わないようにしていました。社員20人くらいの小さいソフトウェア会社で、僕が初めての新卒採用でした。社長がいい人で、小説を書きたいという夢を打ち明けたときに「食べていけるようになるまで、うちの会社を利用しろ」と言ってくれました。

──長年、仙台にお住まいですが、執筆は仕事場で?

伊坂:仕事場だと映画を見たりしてサボっちゃうんで、気が向くとカフェでも書いています。最近は、お店にいてもあまり気づかれません。昔のほうが声をかけられていたので、単に僕の知名度が下がっているのかもしれません(笑)。

予想もしない展開が

──25年目の最初の作品となる『楽園の楽園』は人類滅亡の危機を描く壮大な物語です。人工知能の暴走が原因と思われ、その謎を男女3人組が突き止めに行きます。「西遊記」を思わせる、五十九彦、三瑚嬢、蝶八隗の3人が登場します。

伊坂:「西遊記」の3人組のバランスは前からいいなと思っていました。運動神経の塊みたいな子、理知的で思索的な子、性欲と食欲の塊みたいな子。女性を書くのが苦手というか、よくわからないので、全員男の子で書きたかったんですけど、そこをあえて三瑚嬢を女性にしてみました。結果的によかったと思っています。

 もともと中島敦さんが「西遊記」に題材を取った「悟浄出世」や「悟浄歎異」という小説が好きだったんですよね。

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