陰謀論あること前提に

──それはどんなものですか?

伊坂:たとえば、『ペッパーズ・ゴースト』だと、作中に出てくる小説の話が本筋のストーリーとつながるものを書きたい、と思いました。ストーリーじゃなくて枠組みだけなんで、恋愛ものでも探偵ものでも何でもいけるじゃないですか。そこを編集者と話して絞っていくんです。

──現代社会の事象が盛り込まれているのも伊坂さんの作品の魅力です。作中に「人間は、どんなものにも理由があって、どんなものにもストーリーがあると思い込んでいる」「脳は、原因と結果をセットで知りたくなる」といったセリフがあります。人間は何にでも理由やストーリーを求め、それが陰謀論やフェイクニュースの興隆につながっていることを感じました。

伊坂:人間は、こうだから、こうなったという原因と結果があるとわかりやすいんです。格闘技を見ても、過去の因縁とかがあったほうが面白いじゃないですか。僕は自分が論理的な人間だと思ってるから、原因と結果があるはずだと思っちゃってる。それを都合よく利用されると、すぐフェイクニュースにだまされちゃうんです(笑)。

 陰謀論も好きで、そうに違いない、怖いね、と思うんですけど、そんな偶然が重なるわけがないとも思う。いつもそうやって、考えが行ったり来たりします。今はフェイクニュースや陰謀論があることをわかって生きていくしかない。

多くの人に読まれたい

──ストーリーを世に送り出す立場としてはどう思いますか?

伊坂:僕はワクワクする物語を作るのは好きなんですけど、小説でメッセージを伝えようと思ったことはないんです。だから、物語の功罪を考えたことはあまりないですね。ただ、勘違いされることはあります。こういうメッセージがあるんでしょ、とか、登場人物が言っていることが僕の意見だと思われるとか、僕が思っている以上にすごい勇気づけられる人がいるとか。自分にはコントロールできないから、悪用されたり、勘違いされたりしないように祈るのみです。

次のページ
意外に盛りだくさんな小説になったと思う