トランプ大統領の手法

 トランプ大統領が勝ち上がるまでの軌跡を描いた米映画「アプレンティス ドナルド・トランプの創り方」が話題となっている。アプレンティスとは英語で「徒弟」の意味で、同大統領19歳前後の頃、父親の不動産業が倒産の危機に逢い、そこから辣腕(らつわん)弁護士に徒弟の如く指導を受け、ニューヨーク市を代表するマンハッタン5番街にトランプ・タワーを建設するなど不動産王にのし上がった様子を描いている。大統領選挙直前の昨年10月11日に米国で上映が始まり、選挙運動中のトランプ氏はその上映に反対したが封切られ、大統領選では予想を上回り勝利した。

 トランプ大統領が弁護士にたたき込まれた人生訓が、①攻撃、攻撃、攻撃、②非を認めず、③負けを認めず、の3カ条。この人生訓は、デイフェンス・ロイヤーと言われる弁護士の典型的な常道で、何も新しくはない。日本でも同様で、弁護士は雇われれば犯罪人でも弁護し、常に正義を弁護するものではない。

外交にもビジネスの手法

 トランプ大統領は、就任後の1月22日、ウクライナ問題解決に向けて、ロシアのプーチン大統領にトランプ氏が創設したSNS「Truth Social」のサイト上で、次のようにイエスかノーの2択で呼び掛けた。

1 易しい道。ウクライナでの愚かな戦争を停止し決着させること。そうすれば大きな便宜を図る。

2 厳しい道。もしこのディール(取引)に速やかに応じなければ、米国および参加国への輸出品に対し高関税や制裁を課す。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は、領土の回復(東部2州のほか南部2州、およびクリミア半島)と米、欧の対ロシア軍事同盟=NATO(北大西洋条約機構)への加盟を主張している。これに対しプーチン大統領は、交渉の準備はできているとしつつ、占領領土の現実の容認とウクライナNATO加盟は受け入れ不可としており、差は大きく、取引は簡単ではなさそうだ。

 なおバイデン前大統領は、ロシアによるウクライナ侵攻に対しNATO諸国と共にウクライナへの兵器供与と共にロシアに広範な経済制裁を課し、金融機関間の決済を容易にする「SWIFT(国際銀行間通信協会)」の使用を停止し、ドル経済圏から閉め出しているので、現状より更に経済制裁を強化する余地は少ないと見られる。バイデン大統領(当時)の対応は、東西冷戦当時の東西分断の構図に立脚したもので、ロシアを中国、北朝鮮に向かわせる結果を招き外交的な失敗と言え、世界がコロナ禍による経済後退から回復を図らなくてはならない時期に世界経済は2つの経済圏に分断されグローバリゼーションの流れは停滞した。

 トランプ大統領のイエスかノーかのディールの手法は、買うか買わないかのビジネスの手法であり、今後のトランプ外交において同様の手法がとられるものと思われる。ウクライナとロシア和平交渉については、対象が国家にとって重い領土や安全保障であるので熾烈(しれつ)な交渉が必要であろうが、一つでも多く平和の買い物があることを期待したい。

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高関税を取引材料に