関税政策も辞さない米経済世界一

 トランプ大統領は、1期目の2018年3月、「中国が米国の知的財産権を侵害している」として、最大で600億ドル(約6.3兆円)規模の中国製品に対し、関税を課す大統領覚書に署名した。その後、米中両国間交渉において、中国の国営企業の中央管理や実質的補助、中国への企業進出に際する中国企業への技術ライセンス供与などについては中国側が原則の問題として譲らず、膠着(こうちゃく)状態となったことから、米国は協議の進展を促すため25%の関税引き上げの対象をすべての中国製品にすることを表明し、漸次実施された。バイデン政権もこれを引き継いだ形となった。

 トランプ大統領は2回目の就任直後、多くの大統領令に署名したが、関税引き上げは直ちには発動せず、外国歳入庁を設立。2月1日に不法薬物の輸出や不法入国問題等を理由として、メキシコ、カナダに25%の関税を、中国に対し、10%の追加課税を課す大統領令に署名した。だが、2月4日に予定されていた発動の前日に、メキシコ、カナダへの関税は1カ月延期が決まった。中国とも話し合いが予定されているという。

 基本的に、2000年代初期に中国が世界貿易機関(WTO)に加盟し、世界レベルの自由化が進み、中国が飛躍的な経済成長を遂げ、またその他諸国が経済発展を遂げた。その中で米国は世界最大の経済国を維持しているが、中国が世界2位の地位を占め、またグローバル・サウスと呼ばれるアジアやアフリカなどの新興国・途上国諸国が顕著な発展を遂げ、それ自体は歓迎すべきことであるものの、2000年代初期に比し世界経済構造が変化し、米国の地位が相対的に低下している。加えて米国の製造部門が後退し米国内の雇用機会が奪われていることへの懸念があるとしても不思議はない。

 中国については、社会主義市場経済の下で、国内では国営企業など基幹産業に補助金を出し、経済活動のみならず人の移動をも厳しく制限し中央統制する一方、国外では多国間主義を主張し世界の隅々まで自由市場の恩恵を享受している状態はフェアでも衡平でもない。2001年の中国のWTO加盟に際し、経済・金融改革・是正につき10年程度の期限を付すべきであった。国際社会の期待は裏切られた今日、加盟時に求められた是正・改革、諸条件について、早急に厳密な審査を行うべきであろう。その上で、市場の内外格差が是正されない場合は、速やかな是正を求めるとともに、それまでの間関税を課すことはやむを得ないであろう。

 ちなみに、2023年の米国の国内総生産(GDP)は27.3兆米ドルで1位であるが、中国のGDPはその約70%の17.8兆ドルと迫っている上、3位のドイツが4.4兆ドル、4位の日本が4.2兆ドルと中国に大幅に水をあけられており、この流れを放置しておけば世界の経済構造は激変し、世界経済秩序も不安定化するおそれがある。

 世界経済は岐路にあり、米国だけの問題ではない。このような世界経済の構造変化に対し経済主要国が早急に対応を検討しなくてはならない問題ではなかろうか。

 今後トランプ政権の2国間の限定的・局部的関税の動向を注視しつつ、相互主義に基づく多国間主義へ転換を図るべく、貿易収支のみに限定せず、資本収支、貿易外収支を含めた総合収支に基づく経済秩序を検討すべき時期ではなかろうか。

小嶋光昭(こじま・みつあき) 1970年4月、外務省入省。在ネパール特命全権大使、在ルクセンブルク特命全権大使などを歴任。ルクセンブルク大十字章授章。退任後、内外政策評論(グローバル・ポリシー・グループ)主宰

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