
「間違えたことのない人間は、何も新しいことをしなかった人間だ」
抗加齢医学のエキスパートとして知られる、医学博士で慶應義塾大学名誉教授の伊藤裕さんは著書『老化負債――臓器の寿命はこうして決まる』(朝日新書)の中で、アインシュタインの名言を引き合いに長寿に必須の「挑戦」について言及している。具体的にはどんな「挑戦」が長寿につながるのだろう? 本書から一部抜粋・再編集してお届けする。
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キーワードは「労」!
老化は「負債病」です。人生という営みの中で起こる「ひずみ」によって生じ、放置しておくとどんどん蓄積して、生活を続けるうえで大きな支障になる。しかし、気を付けて努力すれば返済することもできる。つまり、老化は不可逆な宿命としての存在から、生活と地続きにあって「なんとかする」余地のあるものと、わたしは考えているのです。
2024年に、スタンフォード大学が発表した論文で、この「負債」のピークが44歳と60歳頃に訪れると紹介されました。なんとなく身体の変化を感じる40代では、すでにこの「負債」は溜まってきています。そして、この「老化負債」は、いつからでも返済していくことが可能です。
生涯を通じて、老化負債返済のキーワードは、「労」です。
旧漢字に、火がダブルで配されているように、激しく渾身の力を込めて「よく働く」。そして、それが高じてしまうと、精根尽きて疲れてしまう。だから、その労苦に対しては「ねぎらい」を持つ。この文字は人生の時間経過で順に起こる出来事を、たった1字で示しています。
わたしは、この文字に、上手なストレス活用と老化負債返済の極意を見出しました。前述したスタンフォード大学の研究における一つ目の節目あたりの年齢(44歳頃)では、「労」の1番目の意味の「ろうする」を実践する、二つ目のピークあたりの年齢(60歳頃)では、3番目の意味の「いたわる」を主にして、体のケアをすることが、ミトコンドリアを若返らせ、そして元気を維持することにつながると思います。
ここでは、最初の節目、44歳頃の「労」について、お話ししていきます。