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1回付き合ってみないとわからない
「連絡先を交換して、『よかったら付き合いませんか』と言われたので、『ああ、いいですよ』って。私、あんまり断らないんです。ちゃんと働いている人で、不潔じゃなければ断らない。好きとか嫌いとかはないんです、その時点では。合わなかったら別れればいいし。1回付き合ってみないとわからないから」
極めて合理的だ。
その男性は、とても優しい人だったという。
「同棲しようってなったときに、私が『一緒に住むなら結婚したい』と言ったら、『わかった、いつにする?』って言うから、『別にいつでもいいけど』『じゃあ、クリスマスにしよう』『そうだね』って感じで、結婚しました」
淡々と話しているが、実憂さんなりに大切なポイントはあったようだ。
一緒にいて心地いい
「夫は本当に気分のムラがない人なんです。私は、甘えられる人の前ではヒステリーが発動するから、転居のややこしい手続きとかでキャパオーバーになったとき、『もう嫌だ!』って物に当たったりしたんですけど、『そう言われてもなぁ、しょうがないよ』みたいな感じですごく穏やか。私がライブに行ったり、1人で映画を観たり、いろんな人に会いに行ったりすることも何も言わない。深夜から急に、『今からフジロック行ってくるね』って出かけたことがあったんですけど、『へ? ほう』みたいな。私の趣味にとやかく言わないところが、一緒にいて居心地いいんです」
私は普段から、「自殺」とか「閉鎖病棟」とか、不穏な話をする女性たちとも会うことが多いせいか、むしろこうした話は新鮮だった。きっと知らないところでは、こんなふうに穏やかに暮らしている人もたくさんいるのだろう。そんなことを思いながらコーヒーを飲んでいると、実憂さんがふいに言った。
「私の話、大丈夫ですか? 退屈じゃないですか?」
私のことをよく知っているだけに、平穏なエピソードを語ることに不安を感じたらしい。