事務は「天職」

 実憂さんは、新卒から大手の学習塾で働いているという。仕事に関しても、かなり真っ当に生きてきたようだ。

「大手だから潰れないだろうし、父から『せっかくだから、ちょっとやそっとじゃ取れない資格でも取ってみたら?』と言われて、確かにそうだなと思ったんです。それで、4年くらいかけて独学で勉強して、社会保険労務士の資格を取ったんですね。それを会社に言ったら、塾の受付から本社の人事部給与課に回してくれました」

 父のアドバイスに従って資格を取る、なんて歪みのない人生だろう。

「私、事務が天職なんですよ。同じことを毎日ずーっとやるのが大好き。営業みたいに、人に何かを勧めて迷惑がられたり、相手の顔色を窺ったりしなきゃいけない仕事は絶対にやりたくないですね。相手の気持ちとか、人との相性で結果が変わる仕事は大嫌い。その点、事務は最高です。答えが決まっているから、人の顔色とか超関係ないし、文句を言われても『行政の手続きに則っています』って言えば解決する。毎日決められたことを滞りなく、こつこつ真面目にこなしていくだけで、『仕事ができるね』ってことになりますから」

 淡々と生きているように見えて、実憂さんの価値観はハッキリしている。その基準に沿って、人生の選択をしているのだろう。

思わず「順当だねえ」と言うと、実憂さんは、あいまいな表情を浮かべた。

「うん、……順当」

 何か思うことがあるのだろうか。

※後編へ続く

(構成ライター インベカヲリ☆)

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