かつては「タダ妊婦」「お不妊様」
排卵促進のため、卵管に炭酸ガスを流して詰まりをとる処置をした時。クリニックの診察台で痛みに耐えていると、カーテンを挟んだ隣の診察台から声が聞こえてきた。中絶手術が行われていると気づき、思わず心の中で、「堕ろしたその子を私にください!」と叫んだ。
不妊治療を始めたばかりの若い女性と知り合い、その後すぐに妊娠の報告を受けた時は、「自分は彼女より肉体的に劣っているんだ」と感じて心がすさんだ。数年後、年賀状で二人の子どもを抱いた彼女の写真を見ると、悔しさのあまり「もう捨てたろ!」と思った。
不妊に悩む女性たちが情報交換できるネット掲示板を見ると、ねたみそねみに苛まれるのはみな一緒のようだった。
「『ベビーカーを押した人を見ると、突き飛ばしたい衝動に駆られる』という書き込みもありました。特に“女のドロドロ”を痛感したのは、『無事に赤ちゃんを授かりました』というコメントに対するリアクションです。最初はみんな祝福の言葉を寄せるのですが、『妊娠3カ月になりました』などと経過報告があると、『ここは不妊の人のための掲示板だから出て行って』などと豹変する様子を目の当たりにしました」
今回は「無課金妊婦」という言葉によって、不妊治療中の生々しい感情が顕在化したが、榎本さんによると、以前から「タダ妊婦」などと自然妊娠の女性を揶揄する言葉はあった。反対に、不妊治療のために会社を休む女性が、同僚から「お不妊様」と陰口をたたかれることもあったという。
榎本さんは、「妊娠をめぐる女性間の“分断”はこれからもなくならない」とみる。それでも、少しでも歩み寄るためのヒントとして、こう提案する。
「嫉妬や敵意をすぐにSNSで発散する前に、一度冷静になって自分の内面を見つめてください。『今の私はネガティブな感情に支配されているな』と気づければ、嫌な言葉を生み出す芽をつめるはずです。不妊治療中は、どうか妊娠のことで頭をいっぱいにせず、自分なりの楽しみや息抜きを見つけて乗り切ってほしいと思います」
(AERA dot.編集部・大谷百合絵)