今回は、作例に「水を飲む」というテーマで写真を選びました。「水を飲む」は、飲む前、飲んでいる最中、飲んだ後、という場面で、見せ方やタイトル、さらにキャプションで伝える内容が変わってきます。写真を選ぶ時に一番に考える必要があるのは、「何を伝えたいのか」です。

 わたしは写真選びに時間をかけます。選ぶ基本は、被写体になってくれたモデルが喜ぶ写真です。モデルが動物の場合、見せて喜ぶのは、ごく限られた個体なので飼育担当者が喜ぶ写真と理解してください。しかし、いくら自分では良いと思って選んでも、見る人によっては、喜んでくれない写真もあります。これを避けるには、撮影時の記憶と愛着は忘れて、撮影者の立場ではなく、写真を見る人の立場になって冷静に選択する必要があります。

 選ぶ決断が出来ない写真は、並べて比較しながら見ていきましょう。パソコンの画面などで見るならば、何度も画面を切り替えて見比べてください。どちらが見る人にとって、自分の意図が伝わるか、を考えて大まかに選びます。次は、同じような場面と構図の写真を比較しながら選びます。そして、最後には2枚の写真を見比べます。被写体と背景の関係がいい、この表情がいい、この口の開き具合がいい、この足の位置がいい、この水滴の広がりがいい、というように、具体的なポイントを絞って写真を選びます。

 写真選びは、何段階かにわけて徐々に候補を少なくしていき、ベストの1枚を選ぶ、という時間がかかる作業です。ですが、写真選びは、とても大切です。良い写真を選べる人は、良い写真を撮影できる眼をもっていることを意味しているからです。(写真・文/さとうあきら)

*アンリ・カルティエ・ブレッソン(1908年8月22日生~2004年8月3日没)。日常の風景を独特の視点で切り取り、写真として歴史的に定着させたフランスの写真家。日本でも写真集が何冊も出版されているので、図書館や書店でご覧ください。

さとうあきら
動物・写真家。写真を見たみなさんが、「動物園や水族館で暮らしているすてきな動物たちに直接、会いに行ってほしい!」という願いを込めて撮影しています。
著書に『動物園の動物』(山と渓谷社)、『みんなのかお』、『こんにちはどうぶつたち』(福音館書店)、『おしり』『どうぶつうんどうかい』(アリス館)ほか多数。季刊『サイエンスウィンドウ』(科学技術振興機構)で、「動物たちのないしょの話」も連載中

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