動物たちの“幸福な暮らし”を実現するため、具体的にどうすればいいのか? こうした「環境エンリッチメント」という観点から、全国で個性的な動物園が増えています。そんな動物園の動物たちの日常を撮り続けている、動物・写真家のさとうあきらさんの連載「どうぶつサプリ」。今回は、写真の選び方についてです。
【写真を選ぶコツは?「水を飲む」をテーマにフォトギャラリーで紹介】
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写真を選ぶ時に、どれにしようかと悩みませんか?
わたしもベストの写真を選ぶのに時間がかかるようになりました。これはデジタルカメラを使うようになって、連写が気軽にできるようになり、写真をたくさん撮るようになったことが一因でしょう。
わたしの場合、フィルムカメラなら、一日に300枚も撮影すれば満足できる写真が撮れていました。ところが、デジタルカメラでは、記録メディアさえ用意すれば、無制限に撮影することが出来、一日で3000枚とかを撮影するのが容易になりました。これって凄いことです。300枚の写真から選ぶのと3000枚から選ぶのでは、結果に違いが生まれます。
選択するものが多ければ多いほど、自分が目指した「良い写真」に近いものを選べる可能性が増えます。「それは下手な人が言う話。うまい人は、1回のシャッターで最高の写真を撮るよ」とおっしゃる方がいるかもしれません。これは、正論です。うまい人は、良い写真を撮るから「うまい人」なんです。
「決定的瞬間」を捉えるカメラマンと言われるアンリ・カルティエ・ブレッソン(*)の写真を見てください。連写が出来ないフィルムカメラでも、みごとに瞬間と場面を表現しています。うまい人は、どんな時代にもいるのです。でも、それほどうまくない人は、進化したカメラの力を借りましょう。わたしは勿論、カメラの力を大いに活用しています。その一つが連写です。
プロのカメラマンの撮影ぶりを見てください。連写するのが当たり前になっています。競馬場のカメラマン、野球場のカメラマン、記者会見場のカメラマン……どの場面でも連写しているのを目撃するでしょう。なんで彼らがそんなにたくさんの写真を撮影しているかと言えば、失敗をしたくないからです。写真をたくさん撮って、その中からより良い写真を選びたいからです。「プロだから、たくさん撮影するのは当たり前。アマチュアはそんな必要はないよ」と捉えるか、「プロでもたくさん撮影している。アマチュアの自分はそれ以上に撮影しないと良い写真は出来ないだろう」と考えるかで撮影の姿勢と撮影枚数が変わってくると思います。
わたしが写真を選ぶ基準は、「良い写真」「ダメな写真」「これしかないので使用する写真」の3つです。言い換えると、「成功=合格」と「失敗=不合格」の2つだけです。「良い写真」は、もちろん「合格」。「ダメな写真」は、「不合格」。「これしかないので使用する写真」は、「不合格」の中から、しぶしぶ選びます。この「しぶしぶ選ぶ」を出来るだけ無くしたいのです。カメラはシャッターを切ってから実際に写真が写るまでにタイムラグ(時間差)があるので、撮りたい場面が見える前にシャッターを切る必要があります。その撮りたい場面を追っている結果として、撮影枚数が多くなってしまうのです。動物の場合は、人間と同じように、仕草や表情がちょっと変化しただけで強調される内容が変わってきます。自分がテーマと決めた内容を頭に置きながら、動物の変化を追い、どの場面、どの角度がテーマに合う写真になるかを判断しながらシャッターを切ります。