同社は現在、イベントの予約状況や周辺駐車場の価格を加味して値上げ、値下げを提案する自社開発ソフトと、マンパワーを組み合わせた「半自動」の体制で価格を決めている。需給は刻々変化するため、過去データに基づいてソフトが提示する価格をうのみにするわけにはいかず、最終的に担当チームが集まって議論する必要があるからだ。
価格設定の基準にも課題がある。同社はイベント会場など目的地から同心円状に徒歩5分、10分、15分圏内と区別したエリアごとに価格を設定している。しかしこれだと、踏切や河川といった直線距離では測れない障害物を考慮できない。
「最小15分単位で価格を変えていくのに人力では無理がありますし、一つ一つの点(駐車場)ごとの価格設定を実現しないと適正価格は導き出せません」(大塔さん)
ソフトの元になるデータ入力も、その「ずれ」を是正する議論も、いずれもマンパワーでは限界というわけだ。このため同社は、2018年にAI導入の実証実験をスタートした。ただ、現時点で実用化には踏み切っていない。理由は「学習データが不完全」との判断からだ。AIの学習データがコロナ禍のイベント自粛期間と重なりイレギュラーなデータを蓄積した可能性があるという。プライシング担当の内藤仁さんは「今後はAIによる完全自動化を目指す」とする一方、こんな姿勢も示す。
「この価格でどれぐらいの顧客満足度を得られたのかということもAIのアルゴリズムに取り入れ、売り上げは下がっても顧客満足度の観点から価格調整していくことも必要だと考えています」
その理由について内藤さんはこう答えた。
「価格は人の気持ち、感情を揺さぶりますから」
前出の進藤教授は「AIは万能ではない」と強調する。
「AIを扱う以上、どのような設計に基づき、どのようなデータを与え、どのように成長(学習)させるかは常に検討を重ねる必要があります」
一方で進藤教授は「AIによる価格変動システムを使わないほうがいいという選択肢はもうない」と言い切る。「AI任せ」になってはいけないが、消費者の納得感が得られる価格変動の幅と頻度を追求していくスタンスはこれからの企業に必須だ。(編集部・渡辺豪)
※AERA 2025年1月27日号より抜粋