米国ではファストフードチェーン大手「ウェンディーズ」が、決算説明会で早ければ今年にもダイナミックプライシングを試験的に導入すると発表。この報道直後からSNSで批判的なコメントが相次いだため、その後、「値上げはしない」と発表するなど火消しに追われた。

 ダイナミックプライシングの導入が急速に進む日本も対岸の火事では済まされない。デジタルマーケティングに詳しい東京工科大学の進藤美希教授はこう強調する。

「消費者の納得感を得るのはすごく大事です。マーケティング戦略として客の側から見たブランド価値を精査し、モノやサービスの価値そのものに疑いを持たれないよう、適正価格とは何なのかをいま一度考え直す必要があります」

 一方で、こうも述べた。

「そもそも適正価格とは何なのか。私たちは『常識的な価格設定』という認識自体、捨て去らなければいけない時期にさしかかっているのかもしれません。ダイナミックプライシングがさまざまな分野に広がるのはもう止められません。そう考えれば、いまは固定価格の時代が終わろうとしている過渡期と捉えることもできます」

価格は人の感情を揺さぶる、顧客満足度の観点もAIに

 日本企業の取り組みの現場を見てみよう。

 駐車場予約アプリを運営する「akippa(アキッパ)」(大阪市)。空きスペースを持つ法人や個人のオーナーと、通勤や買い物、イベント参加のために駐車場を探すドライバーをマッチングする駐車場シェアリングサービスで人気を集めている。全国で常時4万5千件以上の駐車場が予約可能で、利用者は累計430万人を超える。最大30日前から1日単位や15分単位で駐車場を予約できる同社のサービスの根幹を支えるのが、ダイナミックプライシングだ。

 同社は基準価格の「マイナス50~1700%」の幅で価格設定している。「15分30円」で提供することもあれば、花火大会など人気イベントの場合、1日数千円に跳ね上がることも。価格が高すぎると予約が埋まらず「在庫」を抱えることになり、価格が低すぎるとあっという間に予約が埋まり「在庫切れ」の状態になる。プライシング担当の大塔里紗さんはこう明かした。

「ユーザーにもオーナーにも納得してもらえる最適価格を探るのは職人芸みたいなところがあります」

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価格は人の気持ち、感情を揺さぶる