90歳を迎えた今も現役医師として働く折茂肇医師は高齢者施設の施設長として、入所する高齢者の健康管理をしている。以前、入所していた元気のない92歳の男性が、あることをきっかけに人が、変わったように生き生きとしてきたことが忘れられないという。
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折茂医師は、東京大学医学部老年病学教室の元教授で、日本老年医学会理事長を務めていた老年医学の第一人者。自立した高齢者として日々を生き生きと過ごすための一助になればと、自身の経験を交えながら快く老いる方法を紹介した著書『90歳現役医師が実践する ほったらかし快老術』(朝日新書)を発刊した。同書から一部抜粋してお届けする(第15回)。
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全国の100歳以上の高齢者の人数が、2024年9月時点で過去最多の9万5119人になったという。厚生労働省の発表によると、全体のうち女性が8万3958人で、男性は1万1161人。1998年に初めて1万人を超えたというから、この四半世紀で約9倍に増えたということになる。
高齢になると個人差が大きくなるので、年齢はもちろん、身体的状況だけで健康を判断することが難しくなる。80代、90代ともなると、同じくらいの年齢の人でも自立して社会活動をしている人がいる一方で、寝たきりなどの要介護の人もいることは読者もご存じの通りだろう。また、同じような自立度、身体的状況であったとしても、現役で働いていたり、社会的な役割を持って生活していたりする人は、そうでない人に比べて、精神的に充実していることが多いと感じる。
高齢者の健康状態は気の持ち方次第で大きく変わる
医師として長年、高齢者医療に関わってきて、高齢者の健康状態は気の持ち方次第で大きく変わるものだと実感している。
それを強く感じさせられた、印象に残っている高齢者がいる。以前私が施設長を務めていた高齢者施設(現在の施設とは別)に入所していた92 歳の男性で、かつて小さな会社を自分で経営していたという人だ。とくに大きな病気があったわけではないが、施設にいてもいつもぼーっとしていて元気がない人だった。もちろん施設に入っている時点で何かしらの病気はあって、介護が必要な状態だったと思うが、ほかの入所者に比べても元気がなく、一日中何をするでもなく一人で過ごしていた。