自分を責めずに理解する「認知行動療法」
認知行動療法(CBT)とは、困りごとが生じた際に、その原因を究明し、解決策を考えるだけでなく、その人の考え方や行動を見直すことで問題解決を図る療法です。
たとえば、部屋が散らかっている場合、多くの人は「最近忙しくて掃除の時間が取れなかった」という原因を見つけ、「掃除すれば部屋が片付く」と考えます。
しかし、「どうしてこんなに自分はだらしないんだろう」と過度に自分を責めてしまう人は、落ち込んで何もする気が起きず、ベッドから出られなくなることがあります。このような状況では、掃除する気力も失われ、さらに部屋が散らかってしまう悪循環に陥ります。
CBTでは、まずこの悪循環を明らかにし、「こうなっているから今つらいんだ」と自己理解を深めます。その上で、「部屋が散らかるのは、自分がだらしないからではなく、使ったものを元に戻しにくい配置だからだ」と考え方を柔軟にします。
そして、独力で掃除するのではなく、ロボット掃除機を活用したり、物の量を減らしたり、お掃除サービスを利用するなど、行動自体を変化させることもあります。このようにして、気分の改善を図り、問題解決に向けた行動を取りやすくするのです。
私が効果を実感したからこそ伝えたい方法
自著『仕事も人生も、これでうまく回る! 不器用解決事典』で紹介する“しくみ”は、このCBTに基づいています。もともとうつ病の方を対象に開発され、ADHDの方に用いるようになったのは2000年前後からです。同じCBTでありながらADHDのそれは全く異なるアプローチを取ります。
ADHDのCBTでは、介入のターゲットはADHDの特性から生じる日常生活の困りごとへの対処能力です。困りごとがADHDのどのような特性から生じているのかを神経心理学的視点から理解し、その対処法を習得することが重要です。
たとえば、「ゴミ収集日を忘れずにゴミを出す」ということに対して、ADHDの人はなかなかやる気を出せません。他の人が難なくできることでも、非常に腰が重くなります。
これは脳の報酬系と関連しています。ADHDの人の報酬系は、高額な金銭的報酬や新奇性(目新しさ)に対して活性化しやすいですが、日常のルーチン(ゴミ出し、仕事、風呂、家事、子育てなど)に対してはなかなかやる気が出ません。
そのため、たとえばゴミ出しであれば、「ゴミを出す前にマグカップに牛乳を入れてレンジで温め、その間にゴミを出し、帰ってきたらそこにはちみつを垂らしておいしいはちみつミルクを飲む」といったご褒美の設定をします。このように、ADHDのCBTは非常に具体的で実践的なコツが必要なのです。