特定の集団を熱狂的に崇拝したり礼賛したりすることを意味する「カルト」。新興宗教や新興政党などを指す言葉のように思われますが、実際には同じような要素を持つ組織や企業も多いようです。人々の熱狂を生み出す組織はどのように作られ、運営されているのでしょうか。そのマーケティング手法やブランディング手法について、悪徳商法や陰謀論、カルト宗教などに詳しい雨宮 純氏が解説した書籍が『危険だからこそ知っておくべきカルトマーケティング』です。
いわゆる「カルト」の団体が用いる手法は、ルーツをたどると戦後米国で発展した教会伝道手法にも見られるといいます。1960年代には教会員の減少が始まり、キリスト教会がその行方に危機感を抱く状況に陥りましたが、1980年代になるとマーケティングの考え方を教会成長に適用する動きが活発化。今では教会運営に関するコンサルティング会社やブランディング会社が多数存在し、SNSでの発信などITも積極的に活用されるようになっているそうです。こうした教会のブランディングといわゆる「カルトブランディング」では、その目的や内部への誘導の仕方に違いはあるものの、「宗教にしても企業にしても、『人々を深く組織にコミットさせ、時には熱狂させることで利益の確保や集団の安定を図る』ことを意図すると、自ずと手法が似通ってくる」(同書より)ことがわかります。
では、人々を激しく熱狂させるには何が必要となるのでしょうか。著者は「ビジョンを示すことが非常に重要だ」(同書より)と言います。「今、ここではないどこか」や「大きなものとの繋がり」を感じられるような目的を設定できれば、宗教団体や陰謀論集団、政治運動に限らず、一般企業でも熱狂を起こすことは可能です。
たとえば同書では、「地球を救う」というミッション・ステートメントを掲げる有名アウトドアブランドなどがその一例として挙げられています。また、大きな視点ではなく個人の視点から見た「人生が変わる」という劇的なストーリーも、熱狂を生む有効な手段となるそうです。
ほかにも「共通の敵を設定し、競技と個人を接続する」「覚醒の物語を現実世界とリンクさせ、信者を没入させるスイッチを埋め込む」「外部との差異を認識させ、仲間意識を醸成することで集団を強固なものにする」など熱狂的集団を作るための手法を詳しく解説。最終章では「身近な人が取り込まれてしまったら」についても触れられ、各種機関や相談先も記されています。とはいえ、著者が記すように「身近な人がカルトや陰謀論に染まってしまったことから生じる問題を短期間で解消する方法はない」(同書より)というのが現実のようです。
ただし、カルトの手法を良い方向に使えば「人々に夢を与え、ポジティブな方向に持っていくことで、あなたの集団はマーケティングやビジネスを超えた社会運動・政治運動となり、この国の姿を変えることになるかもしれない」(同書より)と考えることも。どう活かすかは読者次第ですが、同書はカルトの基礎的な知識や理論、手法を詳しく学びたい人にとって有益な一冊になることでしょう。
[文・鷺ノ宮やよい]