AERA 2025年1月20日号より

「入試というのは、人との競争です。一方共通テストは、誰かを蹴落とすものではありません。一定の点数をとれば志望大学に出願できる、学習の到達度を測る試験です。実施側としては、『なるべく実力が発揮できる環境を用意したい』という意識があるのかもしれませんね」(同)

「ただ、配慮が受けられたからといって、突然高得点がとれるようになるわけではありません。そこを勘違いしている親御さんが多いんですね。生徒たちは『超苦手が苦手になるくらい』と言っています」(同)

 そもそも知識量を競う一般選抜は、学習障害の子にとって最も苦手な分野で戦うということに変わりはない。

 そこで成田さんは、「年内入試」での大学進学を勧める。

 年内入試とは総合型選抜や学校推薦型選抜の総称で、書類審査、面接、プレゼンなどで合否が決まる入試のことだ。年内入試を選ぶ生徒は増えており、すでに全入学者の半数超に及んでいる。

特性をポジティブに

 12月に公立大学の学校推薦型選抜で合格したディスレクシアのある生徒は、高校時代を通じて理科実験に取り組んだ。また、別の生徒は、志望理由書に、発達障害を持って学ぶ苦労から芽生えた問題意識を書いて合格した。

「うちの塾では、年内入試で進学する生徒が8割を占めます。それを念頭においた高校生活を送ることも、大切なことなのです」(成田さん)

 自分の特性をポジティブに表現し、その克服と将来の目標を、大学進学へ向かうひとつのストーリーにして語る。それが武器になるというのだ。

 そのためには、総合型選抜に役に立つプロジェクトを、たくさん用意してくれる高校を選ぶのが望ましい。私立中学や高校の中には、探究学習に力を入れているところが増えている。また、総合型選抜の大学入試を見据えて、「生徒の得意なところに注目する」という姿勢が、特に中堅以下の私立高校全体にみられるという。実際私立高校の中には、点数の高い2科目で判定したり、数学や英語1科目を中心に合否を決める学校がある。

 配慮を得られたからといって、合格するわけではない。そして配慮が得られなくても、合格することはもちろんある。配慮を得ることに縛られていると、他の選択肢を見逃してしまうかもしれない。そのことは、覚えておいたほうがいいだろう。

 合理的配慮入試の歴史をみると、申請した年度にダメだったことが、次の年にできるようになっていることがあると成田さんは語る。

「法律が変わって1年目となる25年の私立校入試では、思うような配慮を得られない生徒もいるかもしれません。しかし、申請した生徒は期せずして『ファイター』となり、後輩への道を切り開くことになるのです」

(ライター・黒坂真由子)

AERA 2025年1月20日号より抜粋

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