作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。
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新年早々、失(な)くしました。なにを? 水筒を。どこで?東京ドームで! こりゃ見つかるかわからんな……。
私は忘れものの天才です。絶対忘れないようにと前夜に玄関に置いておいたって、平気で忘れて外出するタイプ。でも、「失くす」や「落とす」はそれほどやらないんです。
そんな私が新年のプロレス観戦で東京ドームを訪れて、長い間大切に使っていたステンレスの水筒を椅子の下に置いてきてしまった。正月の気の緩みとしか言いようがない。
忘れてきた場所はハッキリしています。どんなものかも覚えている。しかし、当日の入場客数はおよそ2万4千人。落としものの数も尋常ではないはず。いやあ、見つかる自信がまるでない。
ネットで検索すると、なんと「東京ドームでの忘れ物はLINEで探せる」とありました。ん? どういうこと?
案内の通り、東京ドームシティfind chatをLINEで友だち登録しました。すぐ指示がきて、落とした物の写真と、いつどこでなにを落としたのかをフォームに記入してとのこと。写真がない場合は、落とし物フォームの質問に答えていけばよいだけ。眼鏡を落としたけれど写真がない場合は「めがね」のボタンを押すと、次にフレームの種類を選べるようになっています。色、ケースの有無などを記入する箇所もある。
フォームに記入して送った翌日、すぐさま希望の光が見えるような質問がきました。水筒の中身を尋ねられたのです。なんらかの似た水筒が見つかったってことでは?
数時間後、またLINEがきました。「お客さまのものと思われるお品物が確認されました。あくまで可能性のご案内となるため現地で実物をお確かめください。つきましては……」
やった! あっという間に見つかりました。このシステム、電話の何倍も便利。オペレーターとの意思疎通がうまくいかずにイライラすることもないし、折り返しの電話を取り損ねることもありません。それでいて、一対一の対応をしてもらえる安心感もある。
落とした側が悪いのだけれど、こういう時の対応がいかにスムーズかで、企業の印象は簡単に決まってしまいます。
何万人も収容できるほかのスタジアムやドームについても調べたところ、多くが電話やメールでの問い合わせのみでした。東京ドーム、なかなかやるわね。
※AERA 2025年1月20日号