著者は2001年に海上自衛隊内に創設された「特別警備隊」の初代先任小隊長(突入部隊の指揮官)だ。拉致被害者の奪還は容易だが、犠牲は必至。問題は「行け」と命じるに値するものをこの国が有しているかどうかだと説く。
 部隊に集まったのは敬礼すら怠るような隊員ばかり。これを肯定的にとらえ、特殊任務の遂行にはその場で判断ができる「自己完結」した個が求められると著者はいう。一命がかかっているのだから、納得できない命令に従う必要はないとも。論じる先は「国」のあり方だ。少年期に交わした陸軍中野学校出身の父との会話。退職後のフィリピン・ミンダナオ島での生活など、冒険小説を読む面白さがある。特殊な人生の独白と思いかけた最終章。一冊の国語辞典をめぐる話の意外性にその思いはひっくり返される。

週刊朝日 2016年9月16日号

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