蛇は「運命の輪」にも登場する。本来は人生の流転を表す運命の寓意であるが、ウェイト゠スミス版ではスフィンクス、死者の導き手である犬頭の神アヌビスとともに蛇が描かれる。蛇は下降し、アヌビスは上昇する。ウェイトはここでの蛇はエジプトの怪物であるテュフォンであると述べている。現代タロットの泰斗レイチェル・ポラックは、死の破壊の蛇と、死者の魂を新たな生へと導くアヌビスが、人生につきまとう死と再生の法則を示すと解釈している。どんなことにも終わりがあり、またそれは新たなスタートだということなのだろう。

 ここに挙げたのは、制作者であるウェイトの解釈を参照したものであるが、実際にはもっと自由に自分自身のイメージを広げてもよい。イヴを誘惑しているこの蛇は身近なところにいるアイツかもしれない。運命の輪の下降する蛇は、最近感じてきた自分の生命力や性的な力の低下と重なるかも……といったふうに連想を働かせて、自分自身を映し出す鏡とすることができるのである。タロットの絵柄のイメージ喚起力は侮れないものがあって、単なる運勢占いばかりではなくロールシャッハテストのように自分の無意識を投影して可視化するツールにもなるのだ。

 タロットの応用の仕方は実に多様で豊かである。日本を代表するタロティストたちの奥義を集めた新刊を上梓することもできたので、もしご興味があればそれを手に取っていただければ幸いだ。

 タロットはうまく使えばすばらしい教養へのチャンネルであり、またエンターテインメントとなり、そして自身を振り返るツールともなるのである。*鏡リュウジ編著、千田歌秋、賢龍雅人、LUA、桜野カレン、暮れの酉著『鏡リュウジの実践タロット・メソッド タロット技法事典』は朝日新聞出版より発売中

「一冊の本 1月号」
『鏡リュウジの実践タロット・メソッド タロット技法事典』  
朝日新聞出版より発売中

[AERA最新号はこちら]