「どないやー」
「埋められとるー」
「いま助けに行くー」
「無理やろー」
「そやなー」
「いろいろ、後で考えよー。しばらく仮眠するわー」
「ワダー、寝るなー、死ぬぞー」
この交信を最後に、ワダの声は途絶えてしまいました。
ワダとの交信が途絶えてから一時間ほどたったとき、僕が埋まっている施設に向かって1台の軽トラが走ってきました。作業着を着たおっちゃんが乗っています。施設の管理人に違いありません。軽トラを降りたおっちゃんが、僕の方に近づいてきました。
「お兄ちゃん、何してんのや!」
「いろいろあって、埋められたんです。助けてください」
他に表現のしようがありません。僕は心の中で叫びました。
(助かった! これで助かった!)
無人島に漂着した人が救助船を発見した瞬間は、きっとこんな感じだと思います。
おっちゃんは軽トラからバールを持ってくると、首の周りの凝固剤を剥がして、スコップで僕を掘り出してくれました。
「ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとうございます……」
僕はこの時以上に、人に感謝したことはありません。
おっちゃんは服についた土まで払ってくれて、こう言いました。
「車乗れー、駅まで送ったるわ」
僕は軽トラの助手席に乗せてもらいました。少し山道を下ったところで、僕はおずおずと切り出しました。
「あのう、ひとつよろしいでしょうか……。もうひとり埋まってるんですけど」
「ええっ、まだ埋まってるやつおるん?」
「はい。助けたってください」
おっちゃんは、ちょっとびっくりしながらこう言いました。
「なんで同じ場所に埋まってへんねん」
どう返事をしていいのかわかりません。
「たぶん、目の前の山やと思います」
軽トラはもう一度、山道を上り始めました。僕は窓を開けて叫び続けました。
「ワダー、起きろー、おまえ、まだ女の子とデートしたことないやろーー! ドウテイやろーー!」