ところが、マズイことが起こってしまったのです。
ある日、僕の家にMがやってきました。
「オオシロ、おまえ、俺らからなに逃げまくってんねん。原チャリ貸せや」
Mはひとことそう言うと、僕の原チャリに乗って行ってしまいました。案の定、何日たっても原チャリは戻ってきません。
サイトウに相談すると、彼はキッパリとこう言いました。
「俺たちが平和な日々を送れるようになるために、やつらは鑑別所に入った方がいいんや。だから盗難届け出しや」
僕はサイトウの勧めに従って、警察に盗難届を出しました。するとMは、僕の原チャリに乗っているところをあっさり捕まりました。Mは「オオシロから借りた」と言い張ったそうですが、警察の人が「オオシロ君から盗難届が出てる」とMに言ってしまったらしいのです。
僕は報復を恐れて、家の電話線を引き抜いて布団をかぶって寝ていました。ところがたまたまおかんが電話線をつないだ時に、親玉から電話が掛かってきたのです。おそらくずっとダイヤルを回し続けていたのでしょう。
「サイトウもワダもおるから、おまえも来い」
受話器の向こうから、冷たい声が響いてきました。
ワダはサイトウと一緒にいるところを、セットで拉致されてしまったらしいのです。僕だけ逃げるわけにはいきません。
僕は覚悟を決めて、親玉が住んでいる団地の一室に向かいました。部屋には親玉の他に仲間が3人いて、親玉の嫁さんもいました。嫁さんはものすごい美人で、妊娠中らしくお腹がぽっこりと膨らんでいました。
グチャグチャに散らかった部屋の中、凶悪な5人組がサイトウとワダを取り囲んでいます。僕が部屋に入っていくと、親玉が言いました。
「Mを売ったんは、おまえらか」
「いいえ、違います」
「おまえらやろ」
「違います」
僕は嘘をつき通しました。認めてしまったら、何をされるかわかりません。
これはマズイ……。
「逮捕状出てんねん。おまえら……逃亡資金出せや」
やはり逮捕状の噂は本当だったのです。