健全な現実主義か 不健全な理想主義か
読売新聞は、生成AIに関して他紙と違い、極めて独自の報道をしてきています。他紙が、生成AIとの協業にわっととびつき、紙面でもその光を主としてとりあげているのに対して、その影、危険性について繰り返し報道をしてきています。これは、山口自身の生成AI観が、紙面の報道にあらわれていると見るのが正しいでしょう。
それは、ライントピックス訴訟の控訴審判決にある次の文への思いからくるものでしょう。実は、これと同じ論旨を、ニューヨーク・タイムズが一年前にOpenAIを提訴した訴状にもみつけることができます。
〈ニュース報道における情報は、控訴人ら報道機関による多大の労力、費用をかけた取材、原稿作成、編集、見出し作成などの一連の日々の活動があるからこそ、インターネット上の有用な情報となり得るものである〉
1970年代、朝日新聞が非武装中立を基軸に日米安保体制の解消を主張していた時代に、読売の社論を、非武装中立も武装中立もとらず日米同盟を基軸にすることにしたことに見られるように、渡邉恒雄は常に徹底した現実主義に立脚していました。
ネットに対しては唯一、その現実主義が発揮されず、言論の理想主義をもって読売は対処しようとしたのです。
その後継者たる山口寿一は、2025年には、ネットの誤情報を是正し、健全なジャーナリズムを守るためという理由で、オリジネーター・プロファイルという事業を始めます。
2002年には読売新聞は基幹6社で4896億円もの売上がありました。紙の部数減が止まらぬ中、その売上は2588億円にまで下がっています。
こうした激しい売り上げ減の中、言論の理想主義をつらぬけるか? はたしてそれは正しい方法なのか? 私も注視していきたいと思います。
※AERA 2024年12月30日-2025年1月6日合併号