『Tokyo Live』Tony Williams
『Tokyo Live』Tony Williams
この記事の写真をすべて見る

 第63回の前置きで、バブル崩壊の始まりを「多くが実感するのは早くて92年だったように思う」と述べた。確かに、数字に崩壊の前兆が窺える。1992年に来日したのは216組と、前年から15%減だった。1990年の265組から91年の255組への減少に比べて下げ幅は大きい。それでも、未曾有の来日ラッシュが始まった1989年の190組には勝っている。兆しは表れていたが、まだ行け行けドンドンだったのだろう。54組のフュージョン/ワールド/ニュー・エイジが首位をキープ、46組の新主流派/新伝承派/コンテンポラリー、42組の主流派、31組のヴォーカル、16組のR&B/ファンク系、15組のフリー、8組のビッグバンド(スイングが3組にモダンが5組)、4組のトラッド/スイングが続く。順位はこれまでと大差ないが、R&B/ファンク系がアシッドの増派により4倍増となり、セシルやオーネットが来日したフリーは半減した。

 参加作は前年から9作増の42作ある。ホール録音を含むスタジオ録音は19作あり、日本人との共演は14作、うち9作は和ジャズだ。ライヴ録音は23作あり、日本人との共演は10作、うち6作は和ジャズだ。後者と長期滞日者の2作を外し15作が候補に。取り上げるのは、トニー・ウィリアムスの『ザ・ブルーノート・ライヴ』、エルヴィン・ジョーンズ=ウィントン・マルサリスの『至上の愛~ライヴ・アット・新宿ピットイン』、ダニエル・ユメール~ジェリー・バーガンジ~ジェニー・クラークの『オープン・アーキテクチャー』の3作だ。奇しくもドラマーのリーダー作ばかりとなった。選外作の評価や除外要件は【1992年 選外リスト】をご覧ください。そのなかでは、欧米での録音と組み合わせたジム・ホール盤、ジャン=ポール・ブレリー盤が優れた快ライヴ集だった。彼らのファンならコレクションに加えられていい。では、トニー・ウィリアムス盤から。

 トニーの来日は医療事故で急逝する前年の1996年6月までに都合17度を数える。初来日は1964年7月、言わずと知れたマイルス・グループの初来日時(第9回)だ。1986年までは「V.S.O.P.クインテット」(第35回第40回)をはじめハービーのグループが多い。同年にクインテットを結成してからはグループでの来日は7度に及び、「マウント・フジ・ジャズ・フェスティヴァル」や各地の「ブルーノート」に出演する。1992年2~3月の来日当時は結成から5年あまり、89年にベースがチャーネット・モフェットからアイラ・コールマンに代わったほかはメンバー不動、グループの一体感はピークに達していた。その活動を総括するに際してトニーは初のライヴ盤の制作を決め、予てから熱意と真摯な態度を敬愛していたファンが待つ日本で録音することにしたのだ。ツアー終盤の「ブルーノート東京」で録音され、3日間の6セットから選曲されている。

 一同入場。拍手が続くなか、やにわにトニーが叩き始め期待を煽るソロがひとしきり、たおやかな《ジオ・ローズ》に滑り込む。気負わずサラリと流す心地よいオープナーだ。《ブラックバード》は快速フォービートで。ルーニー、ピアース、ミラーにスインギーな好ソロをものさせるトニーのバッキングとイマジナティヴなソロに感嘆しきりの6分間。《エンシャント・アイズ》は新主流派の趣き。構成にひねりあり、アンサンブルとソロが交互するかたちで進行する。楽想が合ったのか好ソロが続き、なかでもミラーが快調だ。《シタデル》はミラーの独り舞台。ゆるめのテンポで内省的に綴る序盤、テンポをあげて仲間が合流し、素直な歌心で弾む中盤から終盤、世界は小さいがタッチも楽想も素敵だ。《ウォリアーズ》は「V.S.O.P.クインテット」風。トニーが物語性に富むソロで圧倒し、ピアースとルーニーがブチ切れ、ミラーがハービーしまくり、トニーが乱舞する怒涛編。《エンジェル・ストリート》も新主流派の趣き。ショーターのような浮遊感のある曲想にピアースのソプラノが映え、ルーニーはミステリアスに迫り、ミラーは流れにたゆたう。

《シスター・シェリル》はラテンの香り漂うラヴ・ソング。南風を思わせる甘酸っぱいテーマのあと、ピアース、ミラーの無闇に熱くならない抑制したソロが続いて心地いい。どこが《スランプ》やねん!? タイトルと裏腹に陽気に跳ねる。コールマンのロング・ソロはご免だが、ミラーのスインギーに屈折したソロがトニーの煽りともども聴き物だ。《浜辺のミュータント》も「V.S.O.P.クインテット」風。トニーの指揮下、進軍テーマ、ピアース渾身の大砲火、ルーニーの執拗な連射、ミラーの高速走行で攻め立てる激闘編。《シヴィリゼーション》も新主流派の趣き。ミステリアスな曲想だが、ビートとテンポが自在に入れ替わり、リズム変化の妙で飽かせない。ここでもピアースのソプラノが光る。《クリスタル・パレス》は華やかな曲想のネオ・ハードバップ風。ピアースとルーニーは今一つ決定打を欠くが、ミラーが弾きだすと俄かにハービー・トリオ化して微笑ましい。《ライフ・オブ・ザ・パーティー》とは盛り上げ役のこと。充実したセットの締め括りにもってこい。トニーが先発し、臆面もなくラテン調で弾ける短くも楽しいクローザーだ。《アナウンスメント》はトニーによるメンバー紹介。メンバーと楽器名を絶妙な間合いで繰り返すお茶目なMCは音楽を聴くように楽しく、なごやかな気分のうちに幕は下りる。

 クインテットの諸作は大方の好評をもって迎えられた。個人的にはあまりのまとまりの良さと若手・中堅の優等生ぶりが不満のタネで秀作以上の評価をつけかねていただけに、唯一のライヴ作でラスト作の推薦盤には溜飲を下げたものだ。クインテットのアルバムはこれさえあれば十分だとも思う。諸作中で最も入手難(高価)だが気長に探してほしい。

【1992年 選外リスト】fine>good>so-so>poor
Mirror's Image/Billy Cobham (US-Cleopatra/2.15) good+
Reflected Journey/Billy Cobham (US-Cleopatra/2.15) good~
Magical L-I-V-E/Herbie Steward (Marshmallow/5.21) good+
Herbie's Here/Herbie Steward (Marshmallow/5.23) fine-
Chick Corea/Music Forever and Beyond (GRP/5.27) *1
Unissued 1982-1992/Jim Hall (It-Musica Jazz/9) fine, *2
Plays Standards-Live at the Blue Note Osaka/Kenny Drew Trio (Alfa Jazz/10.14-15) Disc 1: good~, Disc 2: good+
The Last Recording-Live at the Blue Note Osaka/Kenny Drew Trio (Alfa Jazz/10.14-15) fine-
Lee Konitz Meets Don Friedman (Insights/10.23) good+
Fade to Cacophony: Live!/Jean-Paul Bourelly & The Bluwave Bandits (DIW/11) fine, *2
Japan Dream/Steve Lacy-Mal Waldron (Egg Farm/11.1) good+
Sing Sing Sing/Mel Torme (Concord Jazz/11.14) good+

*1: 1 title in Tokyo, compilation, studio/live, 1964-1996.
*2: 3 titles in Tokyo, 3 titles in US.
*3: 3 titles in Osaka, 6 titles in US and Europe.

【収録曲】
Tokyo Live/Tony Williams

[Disc 1] 1. Geo Rose (e) 2. Blackbird (e) 3. Ancient Eyes (e) 4. Citadel* (b) 5. Warriors* (b) 6. Angel Street (d)
[Disc 2] 1. Sister Cheryl (f) 2. The Slump* (e) 3. Mutants on the Beach* (e) 4. Civilization (a) 5. Crystal Palace* (c) 6. Life of the Party* (e) 7. The Announcements (f)

Tony Williams (ds), Wallace Roney (tp), Bill Pierce (ss, ts*), Mulgrew Miller (p), Ira Coleman (b).
All compositions by Tony Williams except [Disc 1] 2 by Paul McCartney.

Recorded at Blue Note Tokyo, on March 3 1st (a), 2nd (b), March 5 1st (c), 2nd (d), March 7 1st (e), 2nd (f), 1992.

【リリース情報】
1993 2CDs Tokyo Live/Tony Williams (US-Blue Note)
1993 2CDs Tokyo Live/Tony Williams (Jp-Blue Note)

※このコンテンツはjazz streetからの継続になります。

暮らしとモノ班 for promotion
もうすぐ2024年パリ五輪開幕!応援は大画面で。BRAVIA、REGZA…Amzonテレビ売れ筋ランキング