先日、お話を伺ったとあるメーカーのリーダーの方は大きな部署を束ねる部長さんでしたが、課長たちがなかなか経営視点を持って動いてくれないのが目下の悩みです、と教えてくれました。

 どうも期待通りの動きをしてもらえないようで、そこで私から、「その課長さんたちは、わざと○○さんの仕事の邪魔をしたくて、そういう振る舞いをしようとしていると思いますか?」と伺ったところ、「そんなことはないと思います」と即答されました。

 よくよく考えてみれば明白なのですが、誰かの不利益になろう!と能動的に思って働いている人ってほとんどいないと思うのです。

 毎朝、通勤する電車の中で、「今日も上司を困らせてやろう。困っている顔を見てほくそ笑むのが最大の喜びだ」と強く心に決めて出社するような(ある意味、熱心な働き手)はそうそういないはずなのです。逆に、「今日もいい日になるといいな」というポジティブな期待を持って出社する人の方が圧倒的に多い。

 そう。悪意を持ってあなたをおとしめようと思っている人はほとんどいない。つまり、相手は持っている力を最大活用して、貢献しようと思っているのです。それが、あなたの期待にそぐわなかっただけ。あなたの期待を故意に踏みにじるようなことは、ほとんど起きていないのです。

 そんなお話をしている中で、そのリーダーは、「課長たちは何を期待しているのか、聞いてみようかと思います」と笑顔で会社に帰っていきました。

 なぜ期待に応えないのかを問い詰めることではなく、相手の事情を聞く。

 これが、関係性をより良好にしていくための第一歩だと考えています。相手には相手の事情がある。その事情は何かを尋ねる。ぜひ試してみてください。

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