がんであるとしても、もうこの年になって手術を受ける気持ちはない。薬物療法や放射線治療など、体への負担の少ない治療ができるなら受けるかもしれないが、いざという時の延命治療はあまり考えていない。いずれにせよ、まだ診断はされていないし、なるようになるだろうという心境だ。

折茂肇(おりも・はじめ)医師/東京大学医学部老年病学教室・元教授、公益財団法人骨粗鬆症財団理事長、東京都健康長寿医療センター名誉院長(撮影/写真映像部・松永卓也)

超高齢者は「治療しない」ということも重要な選択肢になる

 読者からすると、前立腺がん以外のがんならどうしたらいいのかという疑問もあるだろう。

 それはがんの種類やステージなどにもよるし、高齢者では患者さんの身体的状態の個人差が大きいので、一概にはいえない。しかし、超高齢者ともなれば、「治療しない」ということも重要な選択肢になるのは間違いない。

 国立がん研究センターが2017年に高齢者のがん治療についての分析をまとめた報告を発表しており、そこでは「治療なし」という選択をした患者さんの割合が示されている。全国427施設で約70万件の症例を集計した「2015年がん診療連携拠点病院等院内がん登録全国集計」で、「75歳以上、85歳以上の高齢の患者さんでは、若い年代の患者さんと比較し、部位や病期によって『治療なし』の割合が多いこと等がわかった」という結果だった。

 例えば、肺がん(非小細胞がん)をみてみると、早期のステージIで、75〜84歳の「治療なし」は7・1%だが、85歳以上になると25・4%と跳ね上がる。根治が見込めないステージⅣでは75〜84歳でも30・2%となり、85歳以上では58・0%と6割近くが治療を受けていない。

 国立がん研究センターは、この報告書に「併存疾患の有無、全身状態等から若い年代と同様の積極的な治療を行うことが難しいと推測されました」と見解を記している。これは「治療したくてもできなかった」ケースを示唆しているが、「治療なし」の背景にはさまざまな要因が混在していると考えられる。患者さん自らが治療を希望しないケースもあるのではないだろうか。

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