私が大学時代に読んだ大江健三郎氏の『見るまえに跳べ』という小説がある。原題であるW・H・オーデンの同名の詩は臆病な自分にいつも何かを突きつけてくるものだった。DAZNとの契約に際しても書棚からこの本を手元において、前例のないチャレンジに向かったことを覚えている。

全試合ライブ配信の初日に
いきなりの大事故が発生

 スポーツ界における放映改革の象徴とも言えるDAZN。今でこそネット配信のABEMAを通じて多くの人々がFIFAワールドカップ2022カタール大会を目撃したが、私がチェアマンに就任した当初、ヨーロッパのサッカー五大リーグでさえもサッカー中継は衛星放送やケーブルテレビなどが主流で、全試合をネット配信に舵を切るリーグはなかった。

 スポーツは試合結果を知ってから観るのでは面白くない。いつでも、どこでも、どんなデバイスでも視聴できるインターネットとはきわめて相性がいいはずだ。しかし、これは既存の放送各局にとっては新たな競合の参入でもある。

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