小さいときの自分に引け目

 それでも方向性が定まったことで、気持ちはラクになったという。

 しかし、今の状況は自分が思い描いていた大人像とは違った。

「自分が小さいときって、結構大人が嫌いだったんですよね。『大人だからできて当たり前じゃん』とか、いつもせかせかして『どうして大人はこんなに余裕がないんだろう?』と思っていた。でも、いざ自分が大人になると、まったくちゃんとしていないから、小さいときの自分に引け目を感じます」

 とはいえ、美里さんは十分「ちゃんと」していた。

「まあ、少子化じゃないですか。経済的に苦しい生活をしている人も多いし、なるべく下の世代には優しくしたい。だから、シングルマザーを支援する団体にはずっと寄付しています。自分にはそれくらいしかできないので」

 もはや、立派すぎて言葉も出ない。

里親になりたいけど…

「本当は、親のいない子を迎えて里親になりたいんですよ。だけど、私は料理ができなくて、整理整頓もできない。自分の世話をするのでいっぱいいっぱいだから、子どもに良い環境を与えてあげられない。自分が不安で無理でしたね」

 どうにも、美里さんは自分に厳しい面があるようだ。私が「大人ですね」「ちゃんとしていますね」と言うたびに、「そんなことないと思います」「全然できている気がしないんですけど」と笑いながら否定するのだった。

「なぜかちゃんとして見られることが多くて、それがちょっと怖いんですよ。まったくそんなことないから。部屋だって、本、服、書類の山みたいな。恥ずかしい話、ここ2~3カ月は、布団を敷くスペースがなくて、布団を半分に折って丸まって寝ています。セルフネグレクトみたいな状態がひどくて、洗いものが溜まったり、服が片付けられなかったり、ゴミ出しもサボりがちで……」

「ちゃんとしたい欲」と「ちゃんとしたい病」

 てっきり大袈裟に言っているだけだろうと思ったら、本当にものがあふれているらしい。

 だが、それもよく聞くと、真面目さが関係しているようだった。

「ルールに対して『ちゃんとしたい欲』があるだけに、面倒くさいんですよ。ちゃんとしたいのに、ちゃんとできない。ゴミの分別もちゃんと調べたいし、清掃員がけがしない状態にして捨てたい。プラゴミは洗って捨てるけど、ちゃんと洗うと時間がかかる。

ゴミ清掃員の芸人さんがいるじゃないですか。あの方の本を超参考にしています。捨て方は自治体によっても違うし、区で調べてもわからないものがあったりすると、とりあえず置いておくから溜まってしまう。

だから、『ちゃんとしたい病』だなって思います」

次のページ
太宰の「夏まで生きていようと思った」