「社会的金融教育家」として、今後の活躍が期待される(撮影・佐藤創紀/朝日新聞出版写真映像部)

 えっ? 本を出す=会社を辞める=修行?

 田内さん的には「当然の判断」だった。

「僕は0.1%の確率があったら行動します。1000人中1位を取れって言われたら『無理』って思いますよね。

でも、人生は選択の連続。AかBの2択を10回繰り返せば、1024通りの未来があります」

「佐渡島さんに会うという選択をした。そのうえで1000分の1でも安倍さんに会える可能性があるなら、次に自分が選択すべきは本を書くための修行だ、と」

 佐渡島さんの下、手はじめに高校の社会科「公共」の教科書の執筆に携わった。

「教科書会社との打ち合わせのときに同席したら、佐渡島さんが『ここにいる田内と自分が書く』って言うんです。自分が書くとは思っていなかったので驚きました」

往復1時間もらえる

 佐渡島さんは夜を日に継ぐスケジュールで動いている。当然、田内さんの面倒を見る時間はほとんどなかった。そこで、田内さんが考えたのは「運転手になる」こと。

「佐渡島さんが言うには、文章を書くうえで抽象的な概念を具体に落とし込む作業が大事だ、と。

『そのあたり漫画家が上手だから』と、『ドラゴン桜』の編集会議に毎週、僕も行くことになりました。当初はそれぞれ打ち合わせ場所に行っていましたが、そこでひらめいたんです。

『自分が佐渡島さんの運転手になれば行き帰りの往復1時間、時間がもらえる』と」

 最初の単独著書はダイヤモンド社から出した『お金のむこうに人がいる』。ゴールドマン・サックスを去って2年後だった。

 初の著作を世に出して3カ月後の2021年12月。クリスマスイブ直前の12月23日に、自民党の西田昌司さんから田内さんに連絡が入る。

『党に財政政策検討本部を立ち上げ、西田さんが本部長、安倍さんが最高顧問で勉強会をやるから講演をしてほしい」という依頼だった。

 見事、田内さんは安倍首相(当時)などの多くの政治家に会い、財政問題や年金問題などの「本質」について伝える機会に恵まれたのである。

この記事が丸ごと読める「AERA Money 2024秋冬号」はこちら!
次のページ
女性読者が増えた