米大統領選の勝利を確信し、家族と共にステージに立ち、勝利宣言した共和党のドナルド・トランプ氏(中央)=2024年11月6日未明(写真:AP/アフロ)
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 ドナルド・トランプ氏が大統領に返り咲いた今回の米大統領選。なぜ、トランプ氏が勝利したのか。池上彰氏と佐藤優氏が語り合った。AERA 2024年11月25日号からテーマごとに抜粋してお届けする。

【写真】暗殺未遂に遭い、耳から流血しながら拳を突き上げるトランプ氏

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【米大統領選】

佐藤優:アメリカ大統領選のトランプ氏圧勝は、私の予想通りでした。今年7月以降、内調(内閣情報調査室)もトランプ氏が勝ちということで最後までぶれませんでした。その理由は、アメリカの草の根の情報が取れていたからです。あとは内調の分析官が優れているからです。それがなぜ報道では真逆に変わるのか。これについては、エスタブリッシュメント(支配階級)の集合的無意識を刺激したんじゃないか。そのきっかけは7月の暗殺未遂事件です。有名な「硫黄島の星条旗」の写真と重なるような、星条旗をバックにこぶしを突き上げたトランプ氏の写真で、普通のアメリカ人たちの集合的無意識を刺激した。そのことがエスタブリッシュメントにたいへんな危機感を抱かせた。

 それから私の判断基準になったのは、民主党候補としてバイデン大統領からハリス氏が後継指名された途端にドイツのショルツ首相が「ハリス氏が勝つ可能性が十分ある」と発言したことです。なるほど、アメリカだけでなく、エスタブリッシュメントされた人はそんなにトランプ氏が怖いのか、と思ったわけです。

トランプ派の取材拒否

池上彰:アメリカの新聞社やテレビ局の世論調査では互角の勝負と出ていましたし、日本のメディアも大接戦と報道していました。しかし、始まってみたら、トランプ氏の圧勝でした。

 私は大統領選の取材で2回にわたり、計3週間アメリカにいました。2016年の大統領選の時は、トランプ氏支持だと言うと、「お前アホじゃないか」みたいに言われるので、恥ずかしいから黙っていたけど、実はトランプ氏に入れたって人がいました。いわゆる「隠れトランプ」ですね。

 その後、トランプ氏が大統領になり、自分はトランプ氏を支持していると堂々と言える空気になった。ところがその一方で、トランプ氏が既存のメディアをフェイクニュースだというわけです。トランプ氏の支持者たちも、そんなフェイクニュースに付き合っていられないと既存のメディアに対して真剣に答えなかったんじゃないかって思うんですね。

池上彰(いけがみ・あきら)/1950年、長野県生まれ。ジャーナリスト、名城大学教授、東京科学大学特命教授。『問題はロシアより、むしろアメリカだ』(トッド氏と共著)など著書多数
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現代版の「王権神授説」