鈴木達治郎(すずき・たつじろう)/長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)教授。世界では「核抑止」を背景に、「核軍拡」が進んでいると警鐘を鳴らす。日本被団協のメンバーとも長年交流を続ける
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 世界各地で戦争が続き、核兵器に対する緊張感が高まっている。核のない世界にするには、どうすればいいのか。長崎大学の鈴木達治郎教授に聞いた。AERA 2024年11月25日号より。

【写真】広島・原爆死没者慰霊碑前で核兵器禁止条約を批准した50の国と地域を報告する高校生たち

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 欧州と中東で戦争が続き、東アジアでも中国や北朝鮮が核軍備を増強するなど、これまで以上に核戦争のリスクが高まっています。この差し迫った危機に、日本被団協(日本原水爆被害者団体協議会)がノーベル平和賞を受賞する意義は、とても大きいものがあります。

 核兵器は1945年以降、80年近く使われていません。理由として、核兵器の脅威を核兵器によって抑止する「核抑止」が利いていると考える人は少なくありません。しかし被爆者の方々が核の実相を世界に伝え続けてきたことが、核は使用すべきでないという「核のタブー」に繋がっていたことを明らかにしました。重要なメッセージが世界に出されたと思います。

 現在、地球上には約1万2千発超の核弾頭が存在します。1980年代の冷戦絶頂期は約7万発あったので、数だけ見るとかなり減っていますが、配備されいつでも使える「現役核弾頭」は増えています。背景にあるのが核抑止の考え方です。

 しかし、緊張関係が高まると、誤解や誤認識、エラーなどで核兵器が使われるリスクが高まり、意図せざる形で使われることは考えられます。そうなった時、核保有国も地球規模の核戦争は避けたいと考えているので、最初に核のターゲットになるのは同盟国の軍事基地です。

 欧州ではNATOの国々、北東アジアでは米国の「核の傘」の下にある韓国や日本の軍事基地です。そしていったん核が使われれば、報復の連鎖により、短期間で地球規模の核戦争になる可能性があります。

 核のない世界にするには、まず核抑止の依存度を下げていかなければいけません。それには「核兵器は絶対使ってはならない」というメッセージを大きな声で伝えていくこと。核に依存しなくても安全保障が保たれるよう、各国の緊張関係の緩和も必要となります。日本は核兵器禁止条約に批准していませんが、オブザーバーとして参加できるので、保有国と非保有国の「橋渡し役」が期待できます。

 将来的には、核兵器の製造や保有などを禁じる「非核兵器地帯」をつくることを目指すべきです。すでに南半球は非核兵器地帯となっていますが、欧州や中東、北東アジア全体でも非核兵器地帯を設け、核廃絶の道を探っていくことが重要となってきます。

 次の世代を担う若者たちの核廃絶に向けた活動は高く評価しています。彼らは意識が非常に高く、発想も豊か。若い力に期待しています。

(編集部・野村昌二)

AERA 2024年11月25日号