売れ行きが伸びていると報じられた、国鉄のさまざまなアイデアきっぷ(1982年)

国内旅行の需要はシニア層

 新規顧客は年齢が低いほど長期の利益に結びつく。鉄道の場合は特にそうだ。

「10代、20代の若者が鉄道旅に親しんでくれれば、年齢を重ねてから特急や新幹線のグリーン車に乗ってもらえる。その点において、青春18きっぷの戦略はある程度成功したと思います」

 現在、国内旅行の需要を支えているのはシニア層だ。国土交通省によると、旅行者の年齢は50代が最も多く、23%。40代以上が65%を占める(2000年)。

 青春18きっぷも誕生から40年あまりがたち、若者にとって「青春」という名称も魅力が薄れ、メインの利用者は繰り返し利用する既存顧客の中高年層にシフトした。「このきっぷがいい」と、繰り返し使うなじみの客にとって、変更は苦痛になる。一方、新規に獲得した顧客であれば、クレームにはならない。

 今回の自動改札機対応が、若い新規顧客の獲得に結びつくかは「現時点ではわからない」というが、「青春18」というブランドを残したいというJRの意思を感じるという。

青春18きっぷの人気を伝える写真。1993年の様子

「JR6社の合意」が必須

 顧客層の変化に対応しようにも、経営基盤の大きく異なるJR6社の合意が壁になる。各社が独自に全国ブランドである「青春18」を冠した商品を出すのも難しい。

 たとえば、7日乗り放題の「北海道&東日本パス」について、山田さんは「青春18ブランドで出せたら、よかったかもしれない」と話す。

「40年も育ててきた青春18きっぷですから、各社のブランドマネジャーはさまざまな商品にそれを冠したいでしょう。でも、他社への配慮など、そうできないJRグループ内の事情があるのだと思います」

鉄道旅ならではの魅力とは

 青春18きっぷの存在は大きかった。子どものころから「鉄ちゃん(鉄道愛好家)だった」という山田さんは、青春18きっぷをよく利用したという。

「まず、東京から大垣(岐阜県)行きの快速列車に乗って関西を目指しました。そこからいろいろな路線を乗り継いで、遠くへ行く。そうやって旅したおかげで、夜行のボックスシートに長時間座っても大丈夫な耐性ができちゃった」

 近年は、安価な移動手段として高速バスや格安航空(LCC)の利用客も増加している。

 だが、鉄道には高速バスやLCCにはない魅力がある。

「途中下車できるのが、鉄道の長距離きっぷの最大の強みです」

 旅の途中でも、気になった街の駅で下車し、観光を楽しみ、名物を食べる。そんな旅の醍醐味を青春18きっぷがこれからも支えていくのは間違いないだろう。

東海道線を走る上野東京ラインのボックス席。通勤電車のイメージが強いが、一部の車両にはボックス席がある。お弁当を開くと、旅気分が盛り上がる

(AERA dot.編集部・米倉昭仁)

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