細川の打撃フォームは、和田打撃コーチの現役時代と重なる。オープンスタンスでグリップを持つ両手を上下させてリズムを取り、捕手に近いミートポイントで豪快に振り抜く。和田コーチは弾丸ライナーの打球が目立ったが、細川は高々と舞い上がる打球軌道が多い。ホームランアーティストの性質を考えると三振が多いのは仕方ないが、2年連続150超の三振は減らせる。選球眼を磨いて打撃の精度を上げれば、来年は個人タイトルを狙えるだろう。
和田コーチの指導を受け、打撃が向上したのは細川だけではない。プロ2年目の福永裕基は111試合出場で打率.306、6本塁打、32打点をマーク。規定打席に届かなかったが、OPS(出塁率と長打率を足し合わせた数値)は.789と、細川(.846)に次いでチームで2番目に高かった。
「彼の悪口を聞いたことがない」
中日を取材するスポーツ紙記者はこう語る。
「和田さんは自分の打撃理論を押し付けることをしない。個々の選手によってアマチュア時代から取り組んできた考え方、打ち方が違うし、それぞれの良さが消えないように心掛けていました。対話を大事にして目指すべき方向をクリアにすることで、選手は迷いがなくなる。福永は昨年の状態が悪くなった時期に、結果を求めて当てにいくようなスイングが見られたが、今年は強いスイングを徹底していた。打撃の軸が定まらなかった石川昂弥にも根気強く向き合い、スタンスを構築していった。まだ道半ばですが、コンタクト能力は昨年より格段に上がっている。チーム全体で見ると、得点力不足は解消されなかったですが、選手たちの成長の観点で見た時に和田コーチの功績は非常に大きい」
和田コーチは野球評論家の時から打撃理論に定評があった。難解な技術も絡んだ糸をほぐすように分かりやすく伝える。今年限りで中日を退団することになったが、他球団の編成担当はその手腕を高く評価する。
「中日で選手からの人望が厚かったと聞いています。温厚な人柄で、現役時代から彼の悪口を聞いたことがない。コーチとしても非常に有能で、理論的かつ選手に寄り添って長所を伸ばす。コーチとして招聘を検討している球団は当然あるでしょう」