デジタル関連収支は通信・コンピューター・情報サービス、専門・経営コンサルティングサービス、知的財産権等使用料の3つを合計して算出されることが多い。英国やオランダには世界的なコンサル企業の本社機能が集中しているため、専門・経営コンサルティングサービスの黒字が膨らみやすい素地があるのだ。
では、デジタル関連収支としての純度が高いクラウドサービスへの支払いなどを含む通信・コンピューター・情報サービスに限れば、どうだろう。この場合、世界最大の黒字国はアイルランド(1956億ドル)で、2位の英国(287億ドル)、6位の米国(96億ドル)を大きく上回る。
「アイルランドは法人税率の低さや、欧州では珍しく公用語が英語であること、教育水準が高いことなどから世界的な大企業がグローバル本社を構えたり、欧州本部を構えたりすることで知られていますが、その特徴がサービス収支に凝縮されているといえます」(唐鎌さん)
ただ、アイルランドが「デジタル貿易の王者」といえるのは、あくまで統計上のこと。
「最終的な利益は米国籍の企業に帰属する、という実情は否めず、その意味で『米国の独り勝ち』は事実です」(同)
とはいえ、ここで留意すべきなのは「最終的な利益は米国籍の企業に帰属する」からといって、英国やEUがデジタル産業からの外貨流出(デジタル赤字)に直面しているわけではないということだ。日本との違いはどこにあるのか。
例えばオランダは、法人税率の低さや個人所得税の減免、研究開発税額控除などの税制措置によってスタートアップを含む外国企業の誘致に成功している。EUにおけるオランダやアイルランドのような税制上の特区を日本につくるという発想は無理筋だろうか。その問いに、唐鎌さんはこんな見解を示した。
「OECDは加盟国の法人税引き下げ競争に歯止めをかける流れにあります。アイルランドやオランダが国全体で導入しているような法人税をぎりぎりまで引き下げる措置は無理だとしても、日本の一部エリアを特区にする選択肢はあり得ると思います」
(編集部・渡辺豪)
※AERA 2024年11月18日号より抜粋