日本の「デジタル赤字」が膨らんでいる。その額は2023年で約5.5兆円と過去最大を更新。背景にはあるのは、市場を支配する米巨大テック企業への依存だ。AERA 2024年11月18日号より。
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日本が海外との貿易や投資でどれだけ稼いだかを示す経常収支。2023年は21兆3810億円の黒字で、前年(11兆4486億円)から黒字幅が2倍近く拡大した。とはいえ、その内訳に目を注ぐと、自動車や電化製品の輸出で稼いできた、かつての日本経済の姿とは大きく様変わりしているのが分かる。
経常黒字の押し上げは、主に海外子会社から企業が受け取る配当金などの「第一次所得収支」による効果が大きい。一方、モノやサービスの取引に伴う貿易・サービス収支は、いずれも赤字が続く。貿易収支の赤字は企業の海外進出が進み、日本製品の競争力も低下していることが背景にある。
では、サービス収支の赤字はなぜ起きているのか。サービス収支の項目である訪日外国人客は大幅に増えている。にもかかわらず、赤字が続く最大要因は米巨大IT企業などが提供する、定額動画配信サービスや、メール・SNSなどクラウドサービスの利用料、ネット広告掲載費などへの支払いが増大しているためだ。この「デジタル赤字」は23年に約5.5兆円と過去最大を更新。14年の約2.1兆円の2.6倍に膨らんでいる。
「23年時点のデジタル赤字の規模は、インバウンドによって過去最大の黒字を更新した旅行収支黒字の約3.6兆円を優に食いつぶしています。観光産業という『肉体労働で稼いだ外貨』は、今や『頭脳労働で生み出されたデジタルサービス』への支払いに消えているのです」
こう話すのは、みずほ銀行の唐鎌大輔チーフマーケット・エコノミストだ。
デジタル赤字が顕在化したのは2020年以降。コロナ禍を機に企業・個人を問わず、デジタルサービスへの依存が増したことが背景にある。唐鎌さんは、中東産油国などから輸入する原油を引き合いに、外資系企業から購入するデジタルサービスについてこう説明する。